坊や
- カテゴリ:友人
- 2021/06/26 17:40:38
ぼくは彼女の顔に浮かんだ期待と、ぼくを認めたときにその期待が喜びに変わって輝くのを見た。
近づいていくと彼女はぼくの顔を撫でるように見つめた。
彼女の目は、求め、尋ね、落ちつかないまま傷ついたようにこちらを見、顔からは生気が消えていった。
ぼくがそばに立つと、彼女は親しげな、どこか疲れたようなほほえみを浮かべた。
「大きくなったわね、坊や」
ぼくは彼女の隣に座り、彼女はぼくの手を取った。
ー 『朗読者』 ベルンハルト・シュリンク ー