Nicotto Town


人に優しく


崇拝


彼女はくるりと向うをむいて、窓にもたれた。

「ほんとに、わたし、そんな女じゃないの。わたし知っててよ、あなたがわたしのことを、悪く思ってらっしゃることぐらい」

「僕が?」

「そう、あなたが……あなたがよ」

「僕が?」と、わたしは悲しげに繰返した。

そしてわたしの胸は、うち克つことのできない名状すべからざる陶酔にいざなわれて、あやしく震え始めた。

「この僕が? いいえ信じて下さい、ジナイーダ・アレクサンドロヴナ、あなたがたとえ、どんなことをなさろうと、たとえどんなに僕がいじめられたろうと、僕は一生涯あなたを愛します、崇拝します」

彼女はすばやくわたしの方へ向き直って、両手を大きくひろげると、わたしの頭を抱きしめて、熱いキスをわたしに与えた。





ー 『はつ恋』 イワン・ツルゲーネフ ー




 




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