踏むがいい
- カテゴリ:人生
- 2021/05/22 11:14:12
司祭は足をあげた。
足に鈍い重い痛みを感じた。
それは形だけのことではなかった。
自分は今、自分の生涯の中で最も美しいと思ってきたもの、最も聖らかと信じたもの、最も人間の理想と夢にみたされたものを踏む。
この足の痛み。
その時、踏むがいいと銅版のあの人は司祭にむかって言った。
踏むがいい。
お前の足の痛さをこの私が一番よく知っている。
踏むがいい。
私はお前たちに踏まれるため、この世に生れ、お前たちの痛さを分つため十字架を背負ったのだ。
ー 『沈黙』 遠藤周作 ー