【第13話】天使坂のソロキャン
- カテゴリ:自作小説
- 2021/05/20 22:03:06
「んっ… めっちゃいい景色だな… やっぱり来てよかったよ」
俺は高原の澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
サイト近くをせせらぎが流れるこのキャンプ場は、銀河高原っていう割と穴場なとこだって、以前クマさんから聞いたのを覚えてて、連休の大宮キャンプの翌週、誰にも言わずに来てみたんだ。
そう言えば、俺ってソロキャンプしたくて準備して、車まで用意した(まぁオヤジ譲りのポンコツ軽ハコバンだけどさ)のに、過去2回のキャンプはどっちもソロキャンプできなかったんだよ。
いや、それはそれでそれなりに楽しかったんだけどね。
昼について、3回目だけどまだ慣れない手つきでテントを張る。
タープのペグを、やや硬めの地面に、拾った丸い石で打ち込んで。
焚き火台をテーブルの上にのせて、炭を熾しては、小さな薬缶でお湯を沸かしてみる。
ふぅ…
一息ついた時だった。スマホがピコピコって…
『天塚クン?今日もキャンプ?』
ん… 予想通り神田さん。てかなんで俺がキャンプに来てるの知ってるんだろう?って少し疑問に思ってさ。
『はい、そうですよ。神田さんは何してるんですか?』
タプタプとメッセージを返してみた。
沸騰したお湯で、インスタントだけどコーヒーを淹れてみる。ひと口啜ると、舌が火傷しそうなくらい熱いんで思わずむせてしまった(汗)
『私もソロキャンプ。天使坂キャンプ場にいるんだよ』
天使坂キャンプ場ですか…。
以前雑誌で読んだけど、そこはソロキャンパーの聖地って呼ばれるくらい、一人でのキャンプがメインの、有名な場所なんだ。
銀河高原は山梨県。天使坂は栃木県の北部。
『そうなんですか…俺は銀河高原です。けっこー遠いですよね?200キロくらい離れてます?』
『あはは、そだね…なんか運命だよね。同じ日にキャンプしてるのに、そんなに遠くにいるなんてさ(◎_◎;)』
顔文字かわいくね?
しばらく、当たり障りのないメッセージのやり取りが続く。
おや?いつの間にかあれだけ熱かったコーヒーがぬるくなっちゃってるぞ。
『こないだはごめんね。見られたくなかったんだよね?』
いきなりだった。神田さんの左フックが俺のボディを捉えたのは。
『ぇ…?』
『うん… 写真…』
メッセージのやり取りは続く。俺は何となく、雰囲気に引きずられるようにスマホの液晶をタップしていたんだよな。
『あ、いえ…その…』
『天塚クンにとって、とっても大切な女性なのね…』
神田さんのメッセージが、一文字一文字俺の心を突き刺すように届いてくる。
『あんなにあたふたしてる天塚クン、見たことなかったしさ…』
俺は、表現しようのない昂ぶりに、メッセージを送る指先が震えて止まってしまう。
液晶画面に、神田さんの文字が滲むように踊っている。
『ごめんね。私何だか今日は変だよ。気にしないでね、キャンプ楽しんで!』
それが最後だった。神田さんからのメッセージが途絶えた。
よく言うでしょ。
きっかけって何なんだろうって。
ちょっとした出来事が、今までのすべてをひっくり返してしまうんだって。
なんだろうこの感覚。
何だろうこの切なさ。
一瞬、風が立って俺の頬を叩くように通り過ぎて行ったのが分かったよ。
「ん…」
俺は立ち上がって、ダッシュでポンコツアクティに向かったんだ。
(続く
御意(◕ 。 ◕ღ)
いよいよ天使坂がでてきましたね!
もう少し続きそうで良かった~♪