【第6話】天使坂のソロキャン
- カテゴリ：自作小説
- 2021/05/05 21:29:53
今年の桜は遅いみたいだ。
入学式が終わって、新歓コンパをいくつか参加して、それでもまだ校門から校舎に続く坂道の両サイドを固めるソメイヨシノは5分咲きくらい。
俺はまだ大学に入ったばっかりで友達もいないし、履修届も大学SNSや口コミで決めたばっかりって感じで。講義は来週から始まるっていう水曜日の午後、桜がよく見えるベンチに座ってぼうっとしてた。いい天気で寒くも暑くもない。
ふと何気なく中庭を見ると、芝生の広場の隅っこの方になんだか5～6人集まってる。
え？白い煙がモクモクと… なんだバーベキューやってんのか… それならいいか。
ってヲイ。
学内でたき火していいのか？なんて思った俺は、ついそっちに視線が向いたまま眺めてしまっていた。
周囲を歩く学生たちも、みんな迷惑そうにしててさ。でも誰も注意しようとしない。
そうしてたらさ、俺の後ろからいきなり大声が飛んできた。
「だからー こんなとこでたき火したらだめだって言ってるでしょ！」
俺はびっくりして背後を振り返った。
俺の真後ろで、すらりとした、背が高い（と言ってもたぶん165センチくらいなんだろうけど）セミロングの女性が左手を腰に当てて、やや前屈みの姿勢でそのグループを右手で指さしてるのが見えたんだ。
「何度注意したらわかるのっ！野外活動サークルだったらバーベキューのマナーくらいちゃんとわきまえなさいよ！」
お願いですから耳元で、そんな大声で叫ばないでください…
焚き火をしていたグループは、注意されて慌てて火を消し、器具を持って立ち去って行ったのは今思い出しても笑っちゃうくらいの光景だったよ。
「ほんとに…いくら今ブームだからって、野外活動サークル多すぎなのよね。だからあんな非常識なことをしでかす連中もでてくんのよっ」
俺の存在に全く気が付かない彼女、頬をやや紅潮させつつそう独り言（というにはかなり声が大きかったんだけどね）。
俺はちょっと興味を引かれてさ。
「あのう…すみません。この大学…そんなに野外活動サークルって多いんですか？」
いきなりだったよね。
そりゃびっくりするよね。
きゃっ って小さく叫んだ彼女、そのまま尻もちをついて後ろに転んじゃったのさ。
「すみませんでした、いきなり声かけちゃって…驚いたですよね」
「ううん、こっちこそごめん。違反者見つけたんで、近くに人がいるのに大声で叫んじゃったから、君こそびっくりしたでしょ」
いつのまにか俺と彼女は、二人で学生食堂のテーブルをはさんで向かい合って座っていてね。自販機で買ってきた缶コーヒーなんか目の前に置いていたんだよ。
驚かせたお詫びにって、彼女が学生食堂に誘ってきたので、俺はなんとなくついて行ってきたんだけど。
「あの、いつもああやってマナー違反の人を注意したりするんですか？」
俺はちょっと勇気を出してそう訊ねてみた。
「ううん、いつもはそんなことしないの。今日はたまたま…なんだからねっ」
いや今更とぼけても無駄でしょ。
あの注意の仕方はなかなか堂に入ってたからさ。
それから俺たちはしばらく無言になっちゃった。
「あ、私 経済学部の神田沙織、2年生なんだ」
話題に困ったんだろうな。彼女が自己紹介してきたので、俺はその流れに乗ることにした。
「俺は天塚蕃、同じく経済の新入生です」
「そうなんだ？私より年下なんだね。まぁこれも何かの縁だから、よろしくね」
「こちらこそです…で、神田先輩…」
「どうしたの？」
俺は神田さんのトートバッグから僅かに覗く雑誌を指さして
「それ、”BE-PAL” ですよね…神田先輩もキャンプが好きなんですか？」
するとバッグの中に視線走らせた彼女は、てへっという顔になってさ。
あれま、案外可愛い表情するんだなって。
「あ、わかっちゃった？ そうなの。アウトドア好きだから、ああいうマナー違反は許せなくてね… 天塚クンも好きなの？」
「はい、でも俺はつい先月始めたばっかりなんですけどね…しかもソロキャンプです」
すると神田さんはちょっと嬉しそうに
「私もソロ派なんだよねー」
ソロキャンプの話題で盛り上がり(とは言っても、俺の知識なんてほとんどないから、もっぱら聞き役だったんだけども）、気が付けばもう夕日がほとんど沈みかけてたのさ。
(続く
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(๑ゝڡ◕๑)ﾃﾍｯ
ソロキャンプ同士・・・意気投合かなぁ？
続き、楽しみにしてます(^^♪