Nicotto Town


人に優しく


キス


審問官は口をつぐんだあと、囚人が何と答えるか、しばらく待ち受ける。

相手の沈黙が彼には重苦しくてならない。

囚人がまっすぐ彼の目を見つめ、どうやら何一つ反駁する気もない様子で、終始静かに誠実に耳を傾けていたのが、彼にはわかっていた。

老審問官にしてみれば、たとえ苦い恐ろしいことでもいいから、相手に何か言ってもらいたかった。

だが、相手はふいに無言のまま老人に歩みよると、血の気のない九十歳の老人の唇にそっとキスするのだ。

これが返事のすべてなのだ。





ー 『カラマーゾフの兄弟』 フョードル・ドストエフスキー ー




 




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