Nicotto Town



『良い』と言わず『好き』と言え。


昔世話になった高円寺のペンギンハウスが昨年5月閉店したと知りました。
江古田のリトルペンギンでやらせていただくことが多かったんですが、
閉店の最大の理由はオーナーの高齢化ですって。無理もないですよねぇ。

懐かしくなりインディシーン関連をいろいろ検索してみました。
アシッドマザーズテンプル、マーブルシープ、マヘルシャラルハッシュバズ……
殆どの活動がフォローできるネット時代って凄いもんですなぁ。

植野隆司という人がトッポめのミュージシャンと対談している
『Off Strings』という動画の第5回、2016年分に灰野敬二が出ていた。
どれどれ、と見ました。いやぁ、『慈』に溢れた灰野氏ってなかなかレア。

(本人に自覚はなかろうが)トンチンカンな質問を投げかける植野氏に、
丁寧に、慈しみに溢れた灰野氏が朗らかに答えていくのです。
そこら中に、世代の断層を超え伝えようという意思がビシバシ、素晴らしい。

どこもかしこも面白いのですが、とりわけ共感してしまう部分を二つご紹介。
表題のセリフ、灰野氏が『自由』という語は嫌いだと語った後に、
「敢えて言わせてもらっちゃうけど」と諭すように話した内容です。

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「〇〇は良い」という表現も危険。共犯性、相手に共有を求め抱き込む行為。
「良い」という世界を前提としているが、僕はそれは嫌いだから。
「好き」っていえばいい。好きっていうのは個人的なもの。

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拍手しちゃいますよ。彼の音楽からコレを感じる人が灰野にハマるんです。
もう一つ、演奏一発目の音の『強さ』って何ですか?と訊ねられて、
「簡単だよ。ここにいたくないという意識」と即答。

再び拍手し、同時にコリャ伝わらんと思ったら、灰野氏もそう思ったのか、
丁寧に説明を始めた。しばらく経ち植野氏が絶句した雰囲気を察して、
「お茶飲もうか?」と空気を変えるトコで噴き出してしまいましたが。

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「ここ」とは現実、ふだんのこと。客席より高いトコで僕は「演じる」わけで、
演出として一番の「かなた」って、ここにいたくない、という意識でしょ。
あと危険だから言っとくけど、帰ってこなきゃダメだからね。

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意訳してみます。現実、生活者としての自分はここにいる。
そこから離れた「かなた/むこう」に意識を飛ばさねば表現は始まらない。
仮初の肉体を持つ生活者としてではなく、表現者としての居場所に還る第一歩。

小説でも、絵画でも、舞踏でも。無我夢中に没入し向こうの世界で交信し、
でも必ずここに戻ってくる。だから一音目は決意表明でもあるけど、
玄関閉める前に家族に「行ってくるよ」と声かけるのと似てるかもしれない。

植野氏を演奏者として認めてるから、こんな話をしたんでしょうかね。
灰野敬二もやはり戦後世代のバンドマンだなぁと微笑んでしまいました。
パブリックイメージと異なる彼の一面が見られるので、興味があれば。




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