小説『白の闇』
- カテゴリ:小説/詩
- 2021/01/09 14:07:55
ジョゼ・サラマーゴ 著
『白の闇』を読みました。
数年前に興味をそそられるも
文庫化されておらず
購入をあきらめたのだけれど
最近になって
いつの間にか文庫化されていたのを知り
インパクト大な表紙カバーにも
読書欲を刺激されたので購入しました。
交差点で信号待ちをしていた男性の視界が
突如ミルク色一色に覆われ
その奇病が次々に伝染していき
事態を重くみた政府は
盲目となった患者と濃厚接触者を
強制的に施設へ隔離するという話で。
突飛な設定に加え
国や都市の名前や
登場人物の名前すら
記されないのにもかかわらず
目がみえないという不安を抱えながら
施設へ閉じ込められた人々が
個人の尊厳など歯牙にもかけない
高圧的な政府により
設備も物資も与えられず
食料も満足に与えられず
刻々と悪化する状況の中で
秩序の維持を試みるも
文明下で培われたモラルはぼろぼろと崩れ
人それぞれの本性が浮き彫りとなり
さらに一部の暴徒によって
恐慌状態に陥っていくさまが
圧倒的なリアリティをもって
出現したのでした。
ああ
なんという筆力。
そのような極限状態でも
理性を失わず
何が正しいのかを考え続け
周りの人々を気づかい
言葉を発し行動する
主人公の眼科医夫妻とその仲間に
光明を見出し
慈愛を感じずにはいられず
心を揺さぶられました。
苛烈な場面が多々あるので
読んで不快な気分になる方も
多々いるのではないでしょうか。
それでも食べず嫌いで
本書を読まないというのは
もったいない気がするのです。
人間というものが真摯に描かれ
辛苦に苛まれた際に
人はどうあるべきかが示唆され
しかも読みやすい。
コロナ禍の昨年から
『ペスト』とともに
再び注目されているのもうなずけます。
読書好きの方々にぜひ
この恐るべき名著を体感してほしい
そしてそれぞれの視点で
物語に散りばめられた寓意を
探索し紐解いてほしいと思うのです。
再確認できる作品なんですね。
PS. 「ペスト」はご紹介して頂いた後、最近購入しました。でもまだ読んでません・・・。
大変素晴らしい感想文ですっ!!(o^-')b
見えてるようで、ちゃんと見ていないもの、ありますよね~
人間にとって、自分にとって、何が大事か?
作られた世間の価値観に惑わされていないか?
当たり前と思って注視も感謝もしなかったこと、無関心で放っておいたこと、
コロナ禍で炙り出されたことも色々あると思いますが、
3.11でも、同じようなことを考えたはず、が、
忘れっぽい日本人、"喉元過ぎれば何とやら"になってはいなかったかな……
サラマーゴを読まれたのなら、
NHK『100分de名著』でマルクス『資本論』を観てみてください。
本作のみならず、(私の日記にも返信しましたが)『詩人の生涯』の理解も、
さらに深まると思います。
明日の夜に2回目の放送があるはずなので、取り急ぎ!
ご存知だったらすみません!(≧人≦;)
そして個人の尊厳を無視した強制隔離なども
実際に歴史上で起こったことで、これがまたいつ繰り返されないとも限らない。
現実を突きつけられるような感じがしますね。
読書待機候補に入れておきます!
今まで手にしていた価値観や倫理観
そして世界観でさえ覆され破壊されてしまう
この小説ほどの凄まじさはないものの
『神の子どもたちはみな踊る』を読んだ時に
そう思いました。
同じ日本人でも震災を経験した者と
僕のように経験していない者との間に
なんとも言い難い溝を感じるのは
そのためではないかと。