さくらいろ・・・いつか見た櫻 その1
- カテゴリ:日記
- 2020/12/31 23:07:22
ある辺鄙な山村の診療所に、将来を期待されながら周囲の反対を押し切って、
自らの望んでやって来た若き青年医師がいる。
今では村にとけ込んで村人の一員になっている。
独身で未だに女性と交際したことがない、別にありえる話ではあるけれども、この青年には変わった所がある。
青年は一人暮らしであるにもかかわらず朝起きると「おはよう」、出勤するときに
「いってくるね」、帰宅すると「ただいま」、就寝するときは「おやすみ」と
誰も居ない部屋に向かって挨拶をしている。
診療所で暇になると、いつもある場所に出向いて同じ所に座り込んでいる。
その様子は、昔を懐かしむようにとても楽しそうである。
実は青年は、少年の頃のことをいつも回想しているのである。
少年の時、あるネットゲームをやっていた。
敵を倒して経験値を稼いでレベルを上げるタイプのゲームであるが、レベルが上がると新たな狩場を探さなければならない。
狩場を求めてある峡谷に来た時、麦藁帽子を被ってポツンと女性が一人で座っていた。
別に気にも留めなかったが、何時来てもそこに座っているから少しずつ気になりだしてきた。
あんな所に一人で座っていて寂しくないのかなと思いながら、
だんだん狩場に行くときに彼女に会うのが楽しみになってきたのである。
そして、彼女の隣に座って一方通行ではあるけれど話をするのが日課になったのである。
ところがある日来てみると彼女が居ない。
意気消沈で街を歩いていると、雑貨屋の前に彼女が立っているではないか。
とたんに元気になった少年はある行動にでた。
勇気を振り絞って彼女に話しかけたのである。
が、気恥ずかしさのほうが勝って、すぐに会話を止めてしまった。
少年は後悔しながらも、翌日峡谷に行くといつものように彼女は座っている。
恥ずかしながらも隣に座って話をし出すと、
「いつも楽しい話をありがとう」と
突然彼女が話しかけて来たのである。
少年は驚きのほうが先にたって、しばらく話すことを忘れていたが、
いつものように話始める状態に戻ることができた。
その日から彼女との楽しい日々が続いて、少年は毎日が楽しくて仕方がない。
季節も春、遠くの山々に桜が咲き誇ってとてもきれいである。
彼女も、さくらいろ という名前なのである。
しかし、少年はだんだんと不思議に感ずるところに思い当たった。
いつも、彼女はそこに座って動くことがないのである。
1度だけ、ある里の桜並木を二人で歩いたことがあるだけである。
聞くのも如何なものかと思いながらも、楽しさのほうが勝っているので気にもしなくなってしまった。
ところが月日が流れ、この楽しい時間にも変化が現れてきた。
少年が話しかけても、彼女が沈黙状態になるのである。
最初はその間隔が短かったが、日を追うごとに長くなっていったのである。
少年はどうしたんだろうと心配でたまらない。
そして、ある日彼女はとても悲しそうに少年にある事を伝えた。
「私はある病気でもうすぐこの世から居なくなるけど、あなたにこのキャラを託すから私だと思って何時もここに座らせておいてね。
本当にいままで楽しい時間をありがとう。」
そう言って少年にキャラを託すと、彼女の言葉を聞くことはできなくなってしまった。
押し寄せる悲しさが少年を覆う。
いつのまにか少年の目からは涙がこぼれていた。
そして少年はふと思い当たった。
そうか彼女は動かないんじゃなくて、動けなかったのか・・・
そうだったのか。
翌日峡谷に来てみると彼女の姿はそこには居ない。
でも、彼女をそこに座らせると、隣に自分が座れない。
まだ少年であるから、もう一台PCを買うわけにもいかない。
結局、彼女の姿が見たいから彼女をそこに座らせることにして、月に2~3回ネカフェで自分を隣に座らせることにしたのである。
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