【源氏遊び外伝】 幕間 side 阿鳥
- カテゴリ:自作小説
- 2020/10/19 22:12:02
これは、ミュ☆ミュさんの 『 琵琶湖決戦 前編 』 の幕間です。
https://www.nicotto.jp/blog/detail?user_id=514281&aid=69389763
(……隆哉?)
雪姫と二人、半時ほど山道を歩んだ頃、地の底から聞こえてくるような唸り声がこだまする。同時に、不穏な妖気が漂い始め、熊笹のざわめきとともに姿を現したものたちがいた。
阿鳥はその中に見知った顔を見つけ、無意識に一歩踏み出す。それを雪姫が咄嗟に阿鳥の腕を取り、止めた。
「あとり、あれらは検非違使だったものの形をしているだけの悪霊じゃ」
「悪霊……」
見れば、顔は土気色、目は何も写してはおらず、人の形をしてはいるものの真っ当な生者とは思えない。
それでも阿鳥はそれが現実のものとは、すぐには受け止めきれず、
(隆哉は検非違使になっていたのか……)
阿鳥は隆哉の姿を目で追い続けていた。妖気が濃度を増し万代と呼ばれた鬼婆が姿を現しても、それが近づいてきても。その長い爪を阿鳥の頬に伸ばしても……。
(最後に会ったのはいつだったろう。お前は覚えているか、隆哉)
隆哉は、阿鳥の伯父である現当主の本邸に仕える女房の子で、とはいえ従者見習いとなるにもまだ小さく、当時4歳になったばかりの阿鳥の遊び相手だった。阿鳥が剣術の稽古を始めた後は、稽古相手にもなってくれた。
その頃の阿鳥は、ひんぱんに迷子になる子どもであった。
何かに導かれるように何かに引き寄せられるように……。それに抗うすべも知らず、気づくといつのまにか知らない場所に佇んでいることも多々あった。そんな阿鳥を探し出し、屋敷まで手を引いてくれるのも、隆哉の日常であったように思う。
その隆哉が元服し屋敷仕えは性に合わないと衛門府に勤めた時のことは覚えている。洛中で会うことも門衛をしているところに行き合わせることも何度かあった。そんな折は、
『阿鳥様、最近は迷子になっていませんよね?』
挨拶代わりに、阿鳥にだけ通じる揶揄いの言葉をかけて寄こす。そのたび苦笑するしかない阿鳥としては、いつまでたっても上手い切り返しができなかったが、その元気そうな顔を見に、わざわざ隆哉の護る門を使うことも少なくなかった。
それを知ってか『来月から別の門に移動になるんですよ』と、前もって教えられることも。だが、検非違使庁に転属していたとは知らなかった。きっと、ほんの少し前のことだったのだろう。
隆哉の姿をしたものが、ふいに濁った咆哮を上げる。まるで阿鳥の感傷を拒絶するかのように。
(もうおまえは私が迷子になっても迎えに来てはくれないのだな)
子どもの頃の、何かに引き寄せられるような奇妙な行動が、身の内に封じられていた如意宝珠の影響を多分に受けていたのだとしても、それは元服前までの古い話だ。
もう10年近くそこまで惑わされたことなどなかったし、宝珠が取り出された今その心配はもはやない。
そして目の前にいるのが、もう隆哉ではない、と既に阿鳥も解っていた。
それでも目の前の異形に〝かつて〟が重なって見える。
いつまで子どもでいるのだ、私は…… と、さすがに笑いがこみあげてきた。
「あとりに触れるな! 鬼婆。」
目前の出来事をようやく受け止め始めたためか、雪姫の声が阿鳥を現実に引き戻す。
阿鳥の手を握る雪姫の指に、痛いほど力が入った。
「われは陰陽師・賀茂保憲が式鬼」
「な・・・なんだと・・・あの男の式鬼だと?」
万代のしわがれた声と、隆哉らの唸り声が重なって妖気が渦を巻くように迫り来る。
同時に、後ろから抱きしめられ、阿鳥は青白い光に包まれた。
気がつくと、その身は雪姫とともに湖畔にあった……。
視界いっぱいに琵琶湖が広がる。
光を帯びた水面はわずかながら紫がかり、雪姫の瞳の色によく似ている、と阿鳥は思った。
「賀茂様、それに一つ目の入道も!」
宙に見つけた保憲と妖仲間に雪姫が声を張り上げる。阿鳥を抱きしめていた腕から力が抜け、雪姫がふぅと小さく息を吐いた。だが、手はまだ阿鳥とつながったままだ。
(せっき……)
その暖かなものが、今はこの現世に阿鳥をとどめている。この手を離したくない、と阿鳥は願う。
だが邪魔するように、禍々しい妖気とともに異形が姿を現した。隆哉の姿をしたものも、その中にいる。
つながれた手を一度硬く握ってから静かに、ゆっくりと離し、阿鳥は刀を抜いた。
「行け、せっき!賀茂様と共に!ここは、私に任せて。」
「でも、あとり・・・」
ためらう雪姫の目はまるで一人で置いていくのが心配だと言わんばかりの色をたたえている。思えば雪姫には何度も救われている、大丈夫だと言ったところで信用できないだろう、と阿鳥は心の内で笑う。
だが、それでも、
「私を信じろ、せっき!」
あえて強気で、声を上げた。探るように阿鳥を見ていた雪姫は小さく、それでも強く首を縦に振る。
そうして雪姫が宙に舞うのを見届けると、集団の中ほどにいる隆哉の姿に視線を据え、
(隆哉にさようならを言わなければならないな。ありがとう、も……)
心の中でつぶやいて、阿鳥は刀を両手で握り、
「悪霊が! 隆哉の姿を勝手に使うな!」
怒りに任せ、いちばん手前にいた悪霊の首を跳ね切った。その勢いのまま身を回転させ別の異形を薙ぎ、左隣を切り上げ、身を躍らせながら阿鳥は集団の内側に切り込んでいく。
果ての見えない乱戦の、これが始まりであった。
水面を渡り、風が啼く。木々がわななき、桜が舞う。
だが、切っても薙いでも、その瞬間こそ異形の身はかしいで揺らぐが、さほどの手ごたえを感じさせず。
むしろすぐに立て直し、まるで分裂し増殖を繰り返しているかのように……。
早咲きの桜が。まるで沫雪を、雪姫を思わせるがごとく淡く儚い桜が。
一陣の風とともに、場を静かに染めていく。
次第に疲弊し息を弾ませる阿鳥をあまたの異形が囲み、次第に輪をせばめていく。
もはや人の形をとどめるものは数えるほどになっていたが、妖気はドス黒い渦のように濃さを増していた。
(せっき、そなたとともに……)
式鬼・雪姫 ミュ☆ミュさん
鬼婆こと万代、大津の大蛇 ☤ネコ衛門☤さん
陰陽師・賀茂保憲 黒沢大和さん
藤原阿鳥 和.com
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源氏遊び 有為の奥山 特設サイト ← 流れに沿ってまとめて読めるのは感動です
https://shiro-et-myu.wixsite.com/genji01
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続きはミュ☆ミュさんの 『 琵琶湖決戦 後編 』 でお楽しみください (。- 人 -。)
ミュ☆ミュは式鬼です。白色の髪、紫色の瞳を持ち、月と秋草の神楽装束をまとってリボンで髪を結った妖です。とある人間のことが好きで好きでたまらないようです。
まったくこのままの設定のお話だねぇ。
https://writening.net/page?emzkkR
と
外部サイト 源氏遊び-有為の奥山に掲載させていただきました。
https://shiro-et-myu.wixsite.com/genji01/外伝雪鳥物語その3
雪姫に♥♥ばかりじゃなくて、頼りがいのあるかっこいいところ見せてる。
かっこいいよーーあとり
思いのほか長くなっちゃったのよーw
暗い話のほうが合う気がするんだw 幸せだとイッキにへたれるし。。。
そもそもコイツは大津の大蛇を釣り出す餌なので
(でも肝心の宝珠が取り出されているから、既に旨味はない)
琵琶湖までおびき寄せたら、やることないんだー。本戦の役には立たんだろうしw
見せ場は唯一、ここだけ _(L〃_ _)ノシ バンバンバン‼
雪姫ぃ~、死ぬなよーーーっ
キミがいないと、阿鳥は生きて帰れないぞーーーーっ
あとり、絶体絶命。
うわーっ、切ない。
すごくいいね、
あとりが切なくてかっこいい!!
見知った顔があるとは書いたけど
そんな風に子供のころからよく知ってた人だったのは
とても悔しいだろうな。
そういえば、悪霊が出てからあとりは
あんまり動いてなかったもんね
私が書いてないだけなんだけど。
その間、いろいろ思い出してたんだな。
雪姫惚れ直すだろなー
サイドストーリー、二度三度楽しめていいですね♪
いいぞいいぞー(*゚▽゚ノノ゙☆パチパチ
桜吹雪舞うなかの阿鳥の立ち回り
カッコいいーーーー☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆