小説『錦繡』
- カテゴリ:小説/詩
- 2020/10/10 11:07:20
宮本輝 著
『錦繡』を読みました。
本書の存在は
むかしから雑誌やネットで
幾度か目にし知っていたのだけれど
今まで未読でした。
とある事件により離婚した男女が
10年後に蔵王で
偶然再会したことをきっかけに
手紙をやりとりするという話で。
往復書簡というかたちで
元夫婦がお互いの視点から
離婚当時の状況を振り返ることにより
男女の過去と現在の
身上と心情とが
徐々に明らかになっていくのでした。
男女がそれぞれ歩んできた
波乱の道のりが
上質な文章によって
ときには激しい感情や生活感などの
生々しい描写を伴いつつ
またときには運命や死生観などの
スピリチュアルな描写を伴いつつ
ドラマチックに綴られ
幾度か夜更かししながら
読みふけりました。
さまざまな人生経験を積んだのちに
お互いを心から
信頼できる人として認め合い
かつて若さゆえの
プライドと意地により
胸の内に閉じ込めていた
本音と想いの丈を
ぶつけ合い分かち合えた2人のように
月日を経てから
なにかのきっかけで
少しの勇気をもって
かつて分かり合えなかった人と
お互いを認め合うことができたら
きっと心休まるでしょうね。
若かりしころの男女のように
あまのじゃくな部分が
少なからずある私も
表面上は平和な世の中でも
芸能人の方の悲しいニュースが
続けて報じられるような昨今において
強く生きていくには
心の拠りどころになる存在が
やはり不可欠なのだと
素直に思ったのでした。
往復書簡によって"錦繍"のような心の綾を文章で織りなしてゆく、といった試みは
意欲的で、面白く読めましたね。
ただ、私にとっては『泥の河』のほうが、書きすぎていない分、
自分好みに解釈できて良かったかも?!(*´艸`*)
宮本氏と同じく創価学会員の村田喜代子氏の作品に、
姑と嫁(敢えて、嫁)の往復書簡で物語を浮かび上がらせる『蕨野行』がありますけれど、
思想は疑問に思うところが多々あれど(シツコイ!(*´艸`*) その他の作品などを含めて
存命作家の中では傑出して上手い書き手かと。
今ならもっと素直に、ゆるく、寛容になれるのに、とかね。
人間関係でも仕事でも何でも、そうだと思います。
心の拠り所とか、老後に孤独死しないための方策とか、
あれこれ考えなくちゃいけないことが多いですwww
(でも、そもそも純文学の定義を知らない私。)
離婚した男女が手紙をやりとりするという時点で、
双方、事情があって離婚したけど、相手の言い分を聞く寛容さがある大人ですね。
最近思いますが、何が強いって、寛容さに勝る強さって無いように思います。
100%強くなりたいと希求してもにスーパーマンのように強くは成れないので、
強くなれない自分を許容するってのが、正しい強さなんじゃないかと。(適当)
なかなか読む機会がないまま今に至っています。
今度読んでみようかな。
若かった頃には受け入れることも理解することもできなかったことが
歳を重ねることでできるようになるということは
歳をとることも満更ではないと思えますね。
若かった頃には見えなかった新しい世界が
見えてくるのでしょうね。