盟友
- カテゴリ：日記
- 2020/08/01 13:40:41
そろそろ書いておかないと
いつまでも書かないってのは世の常シリーズその②
当時の富貴堂といえば、
本屋では泣く子も黙る北海道いや札幌の老舗書店だった
22歳の煎兵衛は前年に北大生協や街中ギャラリーの
札幌初のコミケットの真似事をそれなりに成功させ
1年の雌伏の時を経て遂にマーケット関連に進出を決めたのだ
既に参加してくれる漫画サークルは20を超え
大学、高校、同人、個人サークルとの綿密な連絡は
携帯などない箭兵衛の家の電話を占有した
札幌市内はもとより、恵庭、室蘭、
（ああ、今ここにあの単語帳の電話リストがあったらもっとはじけたのに）
母は両膝を痛め、父は迫ってきた転職の苦しみに耐え
姉たちはそれぞれの結婚或いはやり直しの労苦を背負っていたなか
これだけマスコミの歯牙にかかるべく活動をしていた箭兵衛は
とうとうローカルNHKのラジオスタジオに招かれた
こともあろうに朝の7時10分である
戦時動乱時に放送局を占拠されないように検査を受けて
入り組んだ構成を抜けて通されたスタジオブースはちゃちなものだった
平穏な朝の僅か数分に箭兵衛が放った数語はこれだけだった
「コミケットに来てくださいね」
実はその数週間後、昼のローカルラジオ（もちろんNHK）に
我等が同志が十数人呼ばれて穏やかな番組を造って貰った
（会議室だったね）
当時森君が愛知県で雑誌「ドガ」を出版した後、森博嗣としてささきすばる氏を娶り
オーバーワークとも言うべき執筆活動に入ったのは羨望であると同時に気持ちは複雑だった
「そっちじゃないだろう？」
と同時に
「大成功おめでとう」
当時富貴堂のラインアップ同人会にかなうべき大同人誌氏は群雄割拠していた
メインはQUEEN
石川のラブリ
薔薇十字
他もそうそう
こっちからは小野弥夢（彼女は大先輩 自力で進出した）
それからは数人
箭兵衛は軽やかにひたこらさっさと音楽へ逃げた
逃げ足は速い
そして逃げた先に家があるのはまれなことであります
そうそう富貴堂さんとのやり取りで
箭兵衛は20歳以上もの先達にこう言ったらしい
「売れ残りはこちらで片づけます 東販や日販さんには負担をかけません
そこにコストはかかりません」
これを聴いて同志今村ゆみこ嬢は後にプライベートに私にザックリと云った
「箭兵衛さんは何をやっても食べていけるわ」
青山学院出身の快活なお嬢様はこうの賜った
父が炭鉱時代に受け取った息子（自分）の誕生祝いの私宛の銀スプーンは健在である
指を当てる裏側には箭兵衛の刻印が今でも消えていない
感謝しかない
お嬢様はそれを見通したのだろうか
そもそも同人誌は東販や日販とは関係ないんだけど
かくして箭兵衛は東京に逃げ
別な生活が始まった
札幌でのコミケットが再び始まるには数年がかかったとも聞く
さて凝りもしない箭兵衛は
翌年板橋区のコミックマーケットに参加する
西日暮里から自転車で僅か30分
私の札幌での悪行には一切触れてくれず
幸せな時間が半日続いた
さすがに箭兵衛も去りし時を知った
【漫画！万歳！】
とは言わないが、
「もう若くないさと君に言い訳したね」
と言ったのか言わなかったのか
そういえば世田谷の貴方の下宿先に一回お招きしてくれましたね
離れみたいな気を遣わないお宅に数人でおしかけましたっけ
結局世田谷区に行ったのはあの時だけだったな
１０年位前に御尊父様の新聞訃報を偶然お見掛けしました
〇川にいらっしゃるのですね
失礼ながら旧姓にもどっていらっしゃるのを施主の名でお見受けしました
失礼を重々申し上げるのをお許しください
お互いいいお年でございますが
お元気ですか
まだお頬はぷくっとされてますか
（こっちは）ゲッソリでございますよ
お母さまは御創健でいらっしゃいますか
貴女にはそうそう
「箭兵衛さんは何をやっても食べていけるわ」という言葉
（じつはひょっとしたら深い意味はない）のかもしれないけど
でもこれはまさに力になりました
別に根拠なくとも
自信がなくとも
私はやっていっけるーんっだという
箭兵衛は他の仕事につきました
（箭兵衛さんは何をやっても食べていける）
箭兵衛は病気になりました
（箭兵衛さんは何をやっても食べていける）
箭兵衛は犯罪者になりました
（なってません）
（あ、そこまでは面倒を見切れませんはね
あのプくっとした顔
品の良いかんばせ
桃色の頬
元気でいてね
あ 僕は
心配ありません
だってぼくには
銀のスプーンがあるのだから
