小説『すばらしい新世界』
- カテゴリ:小説/詩
- 2020/07/11 13:59:09
オルダス・ハクスリー 著
『すばらしい新世界』を読みました。
コロナ感染の終息が見通せず
不要な外出を控えがちな今日この頃
雨が降りつづき
気分も暗鬱となりがちな今日この頃
いっそのこと
ディストピアな物語でも読んで
とことんまで
堕ちた気分を味わうのもありかもと
『一九八四年』と並んで
ディストピア小説の元祖とも評される
本書を購入してみました。
高度な科学技術によって
生まれる前から社会階級を決定され
各々が与えられた職種に携わり
各々が与えられた幸せを享受する
徹底的に管理された文明社会下で
子供製造工場で働く
上級階級に属する男性職員が
憧れの同僚女性を伴い
文明化されていない野人保護区へ
旅行に出かけるという話で。
序盤を読んで
「これは・・生理的に無理」と思い
数日間放置してしまったのだけれど
気を取り直して読み進め
読み終えたときには
このような社会もありかもと
不覚にも思ってしまいました。
差別とか
DVとか
ネグレクトとか
ハラスメントのような問題は存在しない社会
気分を害したときには
後遺症を伴わない合法麻薬で
即時に気分転換ができる社会
そのような社会に憧れを抱く人は
少なくないかもしれません。
『一九八四年』と比べて
シンプルで読みやすく
ところどころで
ブラックジョークが利いていて
ラストも
まさしくブラックジョークだったのだけれど
終盤の
世界統制管と野人との
互いの思想をぶつけ合う深遠な対話に
引き込まれました。
苦しみのない固定化された観念の幸せをとるか
苦しみをともなう際限なき自由の幸せをとるか
二者択一ということなのでしょうね。
私は
さまざまな感情を刺激し
さまざまな想いをめぐらすことのできる
アートや書物や映画が禁止される社会は
やっぱり否です。
作中に登場する
感覚を疑似体験するだけの
物語に深みのない娯楽映画よりも
『道』とか
『ダンサー・イン・ザ・ダーク』のような
人の愚かさと
世知辛い世の中と
どうしようもない悲劇を描いていても
芸術的で
ぶるぶると魂を震わす
一途な愛を描いた映画を
みることのできる社会であってほしいのです。
苦しみとか悲しみがあってこそ
幸せと感じることもできるんだよな~と思ったり。
アートや書物が禁止されたり統制されるのは私も嫌です。
感じ方も人それぞれだから、一方的に押し付けられるのは勘弁ですね。
批判の源泉は感情面と論理的思考と2つあるように思います。
芸術や本はその感情も論理性も養うので、国家としてはご法度にしたくなるんでしょうね~。
でも、感情をコロしたり考える事をやめるなら、もともと人間で在る必要性が無くなってしまうので、
(人間)国家システムの存在する意味がないですよね。
僕は『ガタカ』という映画を思い出していました。
遺伝子至上主義の近未来で欠陥品の烙印を押されながら
宇宙飛行士を目指す青年を描いたちょっと変わったSF映画です。
その時もユウさんと似た感想を僕も持ちました。
やはり僕は不完全で面倒くさくて
どこか物足りないこの世界が好きなのかもしれません。