Nicotto Town


ガラクタ煎兵衛かく語りき


遺跡ツアー

コーカサスで発生したモンスーンが伍世紀にも亘って地表を遍く廻っていた頃
地表での生命体の影はごく一部でしか確認されない状況だった
同レベルでの共感覚を得た種は各々雲に散り霧に散り風に散り
あるものは地に潜りあるものはヴァンアレン帯の際まで昇り
あるものはコロニーをVRで構築した



そんな中での或る日の博物館ツアー
ツアーナビゲイターが施設の一画で数体のゲストの前にその歩を置いた
『こちらは冷蔵金庫の展示区でございます』
種々はそれぞれ視覚器官と聴覚器官と触覚器官と察知器官を働かせた



そこには無骨な金属や無機化合物で構築されたと思われる櫃が無数に並んでいた
『当時の人類はある概念に特別好感を示していたようです』
『ある概念ってなあに?』
発生してからまだ間もないと思われるゲストの幼体が尋ねた
意を得たとばかりにツアーナビゲイターは両翼を拡げ全感覚で答えた
『当時彼らはそれを「お金」と呼んでいました』



その幼体だけでなく周りの成体達にも疑問の思念が湧き
それは瞬時に博物館を覆った
エーテルの波が嘗てのクライストチャーチを模した地域に押し寄せた



『お金ってなあに?』
幼体の問いに翼を満足げに閉じながら
ツアーナビゲイターは鱗に覆われている胸を見せつけて答えた
『概念です そして概念にしか過ぎないものです』




古代人に不幸(幸福)が訪れたのは全世界的に
お金の賞味(消費)期限が設定された時でした
当時彼らはその概念に過ぎないものの為に生きそして死にました
これもまた概念にしか過ぎない働くという行動形態も重視されていました
働かぬもの食うべからず(雅語)が to be or not to be(雅語)と
同列に扱われていた時代だったのです
程なく(数千年でしょうか)そんな概念は消え去る運命だったのです




『今皆さんがご覧になっている冷蔵金庫という櫃は正にその最終期に
出現したものなのです』




幼体が尻尾を振り振り更に尋ねる
『冷やすとそれは消えないの?』
ツアーナビゲイターは魅力的な冷笑を浮かべた
『彼らはそう信じるしか無かったのですよ』







やがて幼体は帰路についた
手を繋がれた庇護者にツアーの感想を訊かれ満面の笑みでこう答えたという

『I have no money but I have all love!』

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2020/06/19 10:32
あぁ、、早くそういう時代にならんかのぅ?




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