【源氏遊び外伝】 再会(後編)
- カテゴリ:自作小説
- 2020/06/07 20:16:59
再会(前編)
https://www.nicotto.jp/blog/detail?user_id=180002&aid=68887192
宜しければ BGM 雨の音 ボリューム絞ってどうぞw https://www.youtube.com/watch?v=yCmSyMyAEPg
◆
「せっき」
青みがかった白い光は、やがて雪姫を形取る。
真白の頬をかすかに薄紅に染め、微笑む雪姫の慈愛に満ちた表情に、阿鳥も笑う。
「せっき」
どうしてここに? も、参れとは口にしなかったのになぜ? も、全てがどうでもよいことだった。
阿鳥は雪姫の名を呼び、ただ抱きしめる。
開けたままの窓から入り込む雨の音が、単調に、時に緩急をつけてリズムを刻む。
その繰り返しが、もはや音であると気づせかないほど耳に馴染んでなお、
阿鳥は雪姫を抱きしめ続けていた。
「あとり?」
阿鳥の周囲に差し迫った危険がないのは、来た瞬間、解っていただろう。
雪姫の声から解りやすい戸惑いが伝わってくる。
「眠らずとも良いのか?」
もう三時間もすれば空は白んでくるだろう。
ただびとの身でしかない阿鳥に、雪姫が眠りを促しているのは解ったが、それでも阿鳥は動かなかった。
「せっきがいてくれたら……」
そう言うと、雪姫のまとった空気が変わる。ふっと笑った気配がした。
「では先のように膝をお貸ししましょうか?」
少し砕けた調子で、まるで戯れのように雪姫が言う。
阿鳥は虚を突かれたようにピクリと肩を揺らし、ようやく抱きしめる腕を緩めた。
「せっき」
ただ名を呼んだだけ。それでも阿鳥の表情は、紛うことなく嬉しいと告げている。
雨音は夜の闇に吸い込まれるように、徐々に静けさを増していく。
阿鳥は雪姫の角を隠すように薄衣をおおいかぶせ、その膝に頭を預けた。
雪姫の真白の手が阿鳥の両目をふさぐ。
「少し眠れ」
物心ついた時、阿鳥は母の生家にいた。父は出家したと聞かされていた。
父の家は、妖退治に縁の深い家系であるらしく、
阿鳥は陰陽師のような才を持たない代わりに、刀剣の技を磨くことを課せられた。
幼い頃から、刀を振り鍛錬をしている時だけ、母の機嫌は良かった。
「それで夜な夜な妖退治をしておるのか?」
眠る気にならず、ぽつりぽつりと語る阿鳥の話を、雪姫は膝を貸したまま耳を傾けている。
「あれはせっきに逢いたかったからだ。妖退治をしていた訳ではない」
「……私に遇う前から、己れを危険にさらしていたではないか。だから私たちは逢ったのであろう?」
なにゆえじゃ? と問う声には咎めるような響きがある。
だが、その問いに対する明確な答えは阿鳥自身でさえ持たなかった。
なぜだろうな…… とつぶやけば、雪姫は阿鳥の髪を撫でた。
何かに呼ばれているような、何かに囚われているような、何かに駆られているような、
それでいて何もない、己れが空虚であるような奇妙な感覚が阿鳥にはあった。
幼い頃から感情というものにも乏しく、己れは、人の形をした失敗作なのだろうと思っていた。
まだ宮を名乗っていた白藤中将に〝人形のよう〟と評されたのは阿鳥が元服してすぐの頃。
聡い宮の言がすんなりと身の内に入ってきた。
今の阿鳥しか知らない雪姫には想像がつかないだろう、と阿鳥は笑う。
どうであろうな、とはぐらかすように雪姫が答える。
「……夜歩きを繰り返していたのは、何かを探していたのかもしれない」
阿鳥にとって、危険であることさえ意識の外だったのだろう。
死にたいと思ったことは無いが、生きたいと思ったことも無かったように思う。
「今はせっきが私を、生かしている」
少しの間、沈黙が降り、雨の音が耳に騒めいた。
◆
「今宵のそなたは気味が悪いほどに機嫌がよいな」
杯を片手にニヤニヤとした愉悦交じりの笑みを浮かべる白藤中将の問いに、
阿鳥はしらっとした顔で答える。
「誤解を解きましたので」
雪姫の膝枕でまどろんだ翌日、宿直の予定がない阿鳥は、早々に賀茂川沿いの古屋敷に足を運び、
再び雪姫を呼ぶつもりであった。
が、浮かれた様が、白き藤がごとき貴公子の興味を引き、呼び止められたのが運の尽き。
以来、阿鳥の機嫌は急降下である。
それでも白藤中将は機嫌が良いと思っているらしく、その興味を失ってはくれなかった。
「なんぞ誤解されておったのか」
白藤邸の庭が見渡せる、たいそう開けた場所にしつらえた広縁。
そこが今宵、設けられた酒席である。
「噂を鎮めて下されば、かようなことにはならずに済みました」
あれほど逢いたいと焦がれた相手に、他の女性との逢瀬を疑われるという情けない事態……、
阿鳥に言わせれば、発端は間違いなく白藤中将であった。
気色ばむという強いものではないにしろ不機嫌が顔に出ているはずである。
「朧月のように霞んでいたそなたが、今宵の月のように変われば噂は容易に消えぬ」
よくみて見よ、今宵の月を。
そういって白藤中将が酒杯に口をつけながら頭上を指す。
つられて阿鳥が空を見上げれば、昨夜とうって変わって月齢の満ちた月が、冴え冴えと輝いていた。
思わず眉をしかめた阿鳥を、白藤中将はオモシロそうに見やり口の端を上げる。
そんな戯れの酒席を眺めている眼が、遥か上空にあった。
「……あれが如意宝珠とやらを封じられた者か」
闇に紛れてひとりごちたのは、羅城門の鬼こと曹達であった……。
源氏遊び 特設ライトニング https://writening.net/page?emzkkR
~共有物語企画~
源氏遊び
https://genji2017.blogspot.jp/
源氏遊び
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式鬼・雪姫 ミュ☆ミュさん
白藤中将 ロワゾ―さん
羅城門の鬼こと曹達 るーしぇさん
藤原阿鳥 和.com
書けば書くほど、阿鳥って歪んだ男だと思う (*´-ω-`)・・・ そして重い!
雪姫は、いい女すぎる……。けど私が書くと可愛らしさが足りない。
白藤は…… キミは空木宮様の代わりに的になるのか? それともやっぱ宮様が狙われるのか?
ドキドキ
ちなみに、白藤中将 19~20歳、阿鳥 22歳設定。
年齢は下だが、きっとゼッタイ白藤のほうが大人に見えると思う。
「✿外伝・雪鳥物語✿」というコーナーに
こちらのお話を挿入させていただきたく
ご挨拶に伺いました。
画僧と文章を転載させていただくことを
お許しいただければと。
どうぞよろしくお願い致します。
あー ダメとか言われると悲しいかも。
いいよって言ってねー- ̗̀(๑ᵔ⌔ᵔ๑)
白藤中将は常によいところで出てくる。
遊び仲間の雪常と偏継や弾棋のゲームやったり
活発な子だから騎馬打毬やったりね
騎馬打毬は端午の節句の競技です^。^
雨の中しっとり抱き合う2人、綺麗で絵巻ものを見るようです。
阿鳥君に、息を吹き込んだのは、雪姫だね。
男になったと言うか、人間になったというか・・白藤中将に遊ばれてるw
曹達と繋がったね。
鬼を捜してめくら滅法出歩く→兄弟にとっ捕まる→家に帰るってのと
ヘンゼルとグレーテルみたいにお菓子の家を探し歩く→手当たり次第に食べようとする→
止められる。
くらいした知らないので(o´艸`)
なんかいつも迷子のイメージがついちゃってますが
今頃何してるんですかねー
早くしないとアトリ食べられちゃうよ
という思い込み的なもんが、見事に消えた気がします。
明らかにドレスとかワンピ向きの髪を、男装系アイテムに使って全く抵抗がないんだ。
自分でも、この心境? 感覚? の変化は驚きです!
このシチュエーションでは眠れないっしょーーーw
雨って便利w
どこぞの姫との逢瀬を疑われて誤解を解いたのも一行で片付けて
細かいアレコレをまるっとすっ飛ばしたわーーーっ!
ってか、入れられなかったのw
このコーデ本当に好きだ!!
やっと逢えたのに寝たら勿体ないってなりますよね阿鳥さん(≧▽≦)
でも、膝枕で寝てくれるのも愛しさ爆発なんだろうな雪姫。
そして、白藤さんとの会話がw
いいところで出てくるっていうのなんかわかるwww
優しく髪を撫でる雪姫の姿が見えるような叙情的な光景だねぇ。
うっとり(人´ω`*).。*゚+.*.。
女殺しw そこまで言葉を尽くしてないけどね。それより雪姫がいい女すぎると思う。
しっとりした雰囲気が羨ましくて参加しようとした薄紅くんだったのですが むりすぎたー
我々はお子ちゃま路線をまっしぐらしよ˙˚ʚ( •ω• )ɞ˚˙キララ+
雪姫とあとちゃんの純愛萌萌世界も激甘で良い❤︎
雨の雰囲気がロマンチック〜 そして次から次へと殺し文句を吐くあとちゃん
このー女殺しʚ(*´∀`)ɞ
周囲が膨らんでいるんだ…… この話。どこまで広がるかなぁ。。。
あとりさん、後年フラッシュプレイヤーを開発配信するあどびさんのご先祖かもw
いやんおいしい 和ちゃんのもじうまー もぐもぐ( ´w`)❤❤❤
おいしいところだけつまんだ感じだし、誤解を解くシーンもすっとばしたしw
阿鳥のほうが年上なんだねー( ̄。 ̄)ホーーォ。
曹達はどうやって阿鳥を見つけたんだろー(。◔‸◔。)?
このお話 超完璧(๑•̀ㅂ•́)و✧
つみなひと(o´艸`)
曹達がみつけたらやばいじゃない。
いくら雪姫とじじいでも手に負えない
薄紅の君はまだ迷子中みたいだし(o´艸`)
しまった、前編の方にコメント書いちゃった直後に後編がアップされた。
如意宝珠を埋め込まれた阿鳥が曹達に見つかった!
白藤中将も一緒じゃん。危険!
曹達に続くのかこの話!
空木宮様に続くのか?
ずっと雨の音を聞いてたら雷鳴ってきたよ。
ちょっと落ち着いてもう一回読もう。