■近代文藝之研究|研究|文藝上の自然主義(56)
- カテゴリ:その他
- 2009/10/10 14:48:42
■近代文藝之研究|研究|文藝上の自然主義|八 (3)
一方繪畫界では最近自然主義と見るべき印象派の始めも此の頃である。而して千八百八十年代には早くも隆盛の頂點に達して、反動を惹き起こしたと稱せられる。自然主義、就中ゾライズムに對して逸早く反對の陣を張つたのはブリュンチェールで千八百七十五年頃からである。引きつゞいてラメイトル(J.Lemaitre)フランス(A.France)等の重なる批評家も反對の側に立つた。作の上での對照は、ブールゼー(P.Bourget)氏の小説が恰も此の反動期以後すなはち千八百八十五年頃から出はじめてゾラ等の暗澹たる下層の悲慘を描くに對し、好んで上層豪奢の社會の歡樂を描いた。またユイスマン(J.K.Huysmans)も千八百九十五年の『アン、ルート』以後は自然主義中に漸次神秘主義、標象主義の味を加へて來たと見られる。
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*註1:一方繪畫界では
原本ではこの文頭は前ページの文末より改行なしでつづいている。
*註2:最近自然主義と
「近」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註3:頂點に達して
「達」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註4:反動を惹き起こした
「起」の正字体。旁の「己」が「巳」。
*註5:逸早く反對の陣
「逸」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/itsu_nogareru.jpg
*註6:ブリュンチェール
フェルディナン・ブリュンティエール(Ferdinand Brunetière/1849年〜1906年)のこと。《文藝上の自然主義(24)》のページ参照。
*註7:ラメイトル(J.Lemaitre)
フランソワ・エリー・ジュール・ルメートル(Francois Elie Jules Lemaitre/1853年〜1914年)のこと(Francois の「c」はセディーユ、Elie の「E」はアクサン・テギュ、Lemaitre の「i」はアクサン・シルコンフレクス)。フランスの評論家・劇作家。
*註8:重なる批評家
「評」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hyou.jpg
*註9:ブールゼー(P.Bourget)
ポール・チャールズ・ジョセフ・ブールジェ(Paul Charles Joseph Bourget/1852年~1935年)のこと。フランスの小説家・批評家。『弟子』(小説)、『現代心理論叢』(評論)、など。
*註10:小説が恰も此の反動期以後
「説」の旧字体。旁は「兌」。
*註11:暗澹たる下層の悲慘
「暗」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/an_kurai.jpg
「層」の旧字体。「曽」が「曾」。
*註12:上層豪奢の社會
「層」の旧字体。「曽」が「曾」。
「社」の旧字体。扁の「ネ」は「示」。
*註13:漸次神秘主義
「次」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/ji_tsugi.jpg
「神」の旧字体。扁の「ネ」が「示」。
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