Nicotto Town


安寿の仮初めブログ


『JOKER』を見てきました。


今年のヴェネチア映画祭金獅子賞、
『JOKER』を見てきました。
気になっていたからです。

いわゆるアメコミを題材にした映画ですが、
しかし、この作品は、アメコミを原作にした作品特有の
アクション・ヒーロー映画ではありません。

心を病み、
不遇な境遇にあり、
社会から疎外されてきた男アーサーに、
不運な出来事が容赦なく襲いかかり、
その結果、JOKERという稀代の悪党へと変貌していく物語です。

この映画を見る観客は、
アーサーがJOKERへと変貌していくことが
予めわかっています。

ですから、この映画の成否は、
「なるほど、これならば、
 アーサーがJOKERに変貌していったのも無理はない」と、
観客自身が思えるかどうかにかかっています。

そして、その点から言えば、
主演ホアキン・フェニックスの
怪演というか快演に、
最大限の評価を与えるべきでしょう。

ほとんどシーンにおいて出ずっぱりで、
彼が演ずるアーサーに
シンパシーを抱くことはむずかしいのですが、
しかし、アーサーが抱える生きづらさと哀しさを、
引きつった笑い顔の中で表現する彼の演技は、
観客の視線を捉えて放しません。

同時に、
それまで引きつっていた彼の笑顔と身体は、
人を殺めるに連れ、
滑らかに、緩やかにうねる身体表現を獲得していく…。

その身体表現に、
自らを苦しめ続ける社会から、
アーサーが解き放たれていくのを、
そして、アーサーの中でJOKERが少しずつ覚醒していくのを、
観客は見ることになるでしょう。

その点で、これは怖い映画ですが、
見る価値のある映画と言えます。


アメリカでは、
この映画の公開によって、
映画の影響を受けた犯罪が多発するのではないかと、
厳戒態勢をとっていたようですが、
しかし、映画を危険視するのは、
お門違いというものでしょう。

むしろ、映画の影響によって、
犯罪の多発を懸念しなければならないような社会の方が
問題と言えるでしょう。

アーサーのような人物に、
支援の手を差し伸べるのではなく、
孤立させ、怒りや哀しみを溜め込ませていく社会は、
現在のアメリカ社会、
世界中で拡大している格差社会そのものであり、
映画の中の社会と現実社会が瓜二つだからこそ、
映画公開による犯罪の発生を、
警察や社会や世界は、警戒しているわけです。

ですが、本当に警戒すべきなのは、
映画というよりも、
映画で描かれた社会と現実社会が瓜二つであるという
私たちの社会の方でしょう。

「介護孤立」「ひきこもり中年」「不本意非正規」「貧困」…
これらの言葉がリアリティを持つ社会の方が、
遙かに警戒すべき対象であり、
そのような社会が現存するからこそ、
凶悪犯JOKERの誕生を描くこのドラマは、
脅威となり得るのです。

「連帯」とか「支援」とか「絆」とか言った言葉が、
社会啓発の空疎な標語ではなく、
実感として感じとれる社会であれば、
『JOKER』は、
凶悪犯罪者が誕生する心理プロセスを丹念に描いた、希有な作品ですが、
しかし、どこまでもフィクションの範疇に留まり続けることでしょう。


アバター
2019/11/06 18:14
>うとうとさん

確かに、詐欺グループも資金洗浄(マネーロンダリング)も、
もはや国際的ネットワークで行われていますからね。

それに比べたら、私のネットワークなんて
つつましいものです。
これからも、つつましい方向でいくつもりでいます。
アバター
2019/11/05 12:36
難民の数も増えるばかり。
暴力団や、ISなどの暗黒世界の方が連携と国際協力できているようで末恐ろしいです。



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