【お話】祈りを、ここに。
- カテゴリ:コーデ広場
- 2019/06/03 15:11:47
かつて魔道師がつどったこの街に、静かに祈りが降る。幻獣の眠りと共に、誰も知ることなく、静かに。
もらったステキコーデ♪:14
祈りが、降る。
静かに、静かに。降り積もる……。
この街にはかつて、
真理を尊ぶ、塔があった。
それは、学び舎であり、
修行の場であり、祭儀の場、
そして神殿でもあった。
そこには世界を愛し、この世の法則を学び、極めんとする、
魔法使いたちが集っていた。
彼らは共に生活し、おのれを磨きあい、
過去を、未来を、夢を語り合って、過ごしていた。
塔は、もうない。
時の流れのなか、戦と戦のはざまで、すりつぶされ、
知識と知恵は散逸した。
かつて、そのような場所があった、と、
伝える者もいたが、それは、たわいもない夢物語と言われるようになり、
もうずいぶんとたつ。
わたしの血筋は、ここ出身の、魔法使いの一人だったらしい。
呼びかける、小さな声に気づいて、
ここに来た。とても古い、呼び声だった。
ここがそうであると、知らなければ、
どこにでもある街が、そこにはあった。
塔の名残は、どこにもない。
かつてそこに何があったか、知らない人々が新しい街を築き、
暮らすようになったのだ。
しかしそれでも、
街を歩くとどこかしらに、
古びた力のかけらが、声が。
かすかに響いていた。
ひびく声には、祈りがあった。
はるかな時の流れの中、真理を愛する同胞たちに、幸いあれと、願う祈り。
街の中央には、異界に続く門が隠されていて、
そこには、あるじをなくした幻獣が眠っていた。
いつから、ここにいるのか。
いつまで、眠り続けるのか。
わからないけれども、悲しみに沈むその幻獣のために、
せめて夢のなかで、あるじと出会えるようにと祈った。
門を閉ざして街に戻ると、夜。
建物のあかりに、人の世の営みを思った。
小さな幸せが、いとおしい。
大切な誰かと過ごせる時間が、ただ、いとおしい。
だからわたしも、祈りを送ろう。過去の学徒と、未来の誰かに向けて。
幸いあれ。
すべての命に。世界に。
真理を愛するものに。
幸いあれ。
そうして、静かに、静かに。
祈りが、降る……。
***
眠り続けるドラゴンと、街のあかり。
ちょっとノスタルジックな感じで。