夜霧の巷(51)
- カテゴリ:自作小説
- 2018/12/08 13:58:48
掃除機の騒音で菅原は目覚めた。階下の居間へ降りていくと伯母が掃除機の電源を切って、訊いてきた。
「慎一郎さん。昨日はどこで呑んできたの。大分、酔っぱらっていたけど。」
「亡くなった伯父さんが、元気な時に建てたレジャービルのテナントさんでクラブ夜霧というところ。」
「フーン。私は知らない。あなたもクラブへ出入りするようになったの。」
「いえいえ。そんな贅沢はできません。たまたま以前に勤めていAI企画センターの営業課長に連れて行ってもらったのです。ちょっと伯母さんにお聞きしたいのですが、クラブ夜霧のママをしている植村雪枝という人に覚えはありませんか。」
菅原は伯母が入れてくれたコーヒーを口に運びながら訊いた。
「正信の仕事のことについては全然興味なかったから、何も覚えていないわ。水商売の世界なんか。若い時から興味なかったから。」
「だけど、テナントに入ってくる殆どの人は美形だし、そうでなかっても魅惑的な人が多いでしょう。それに男女の仲を知り尽くしている人達だから、一人や二人、伯父さんに浮いた噂もなかったというのも不思議ですね。伯母さんが知らないだけで、本当は陰で伯父さんが浮気をしていたということはないのですか。」
菅原は伯母をけしかけるように言った。多少、刺激でも与えない限り伯母は猫をかぶっていると思った。
「そりゃ、なかったと言えば嘘になるでしょう。山ほどあったわ。全部、正信が亡くなってから忘れた。もし、正信が遊び暮らしていたら、子供の一人や二人認知してくれと言ってくるでしょう。けれども、何もなし。正信は跡継ぎを欲しがっていたけれども、私たちには子供がないでしょう。これが何よりの証拠じゃない。何人もの人から言い寄られたに違いないわ。そう思う。あの人って、ちょっと変わったところがあるのよ。他人には分からないかもしれないけれど。」
「それ。のろけですか。そんな話、始めて聞きました。」
菅原はびっくりしたように体をのけ反らしていった。
「正信は商売に正直だったのよ。誰かに隙をみせたら、いくらでも、くらいついて来る人が沢山いるでしょう。だから、レジャービルを造るにあたって、正信はそれなりの信念でもって仕事をしていたんだと思う。」
菅原は伯母夫婦の絆に触れた思いがした。
お互いなかなか筆が進まないですね。
私はやっと二節がおわり、いよいよ川越の戦に突入するところです。頑張りましょう。