【DH】 アルシア 4 疑いようのない結末
- カテゴリ:自作小説
- 2018/11/30 22:28:56
「セレスが処刑されたそうだ」
隠れるから、と伝言をよこしたはずのユベールがいきなり来訪し、バサリとテーブルに新聞を投げ出す。
そのまま彼はソファーに乱暴に腰を下ろした。
振る舞いばかりでなく、見目麗しい貴公子の顔も苦々しく歪んでいる。
セレスは、アルシアの家の従者で、ユベールとも幼馴染みだった男だ。
アルシアに傷を負わせて逃げて以来、消息不明となっていた。
当時、事件はそれなりに知れ渡ったから、処刑のニュースも、そこそこ大きく扱われているのだろう。
(わざわざ出向いて来るほど、セレスを気に掛けていたか)
ユベールの態度を見てアルシアは、いや、幼い頃から20年近く友人と言っていい間柄であったのだから
当たり前か、と思い直す。それでも、そんな感情は欠片も見せず、
「隠れるのではなかったのか?」
使い魔・和衷におまえ、そう言っただろう。
そんなことを問えば、彼は眉をひそめてアルシアの横顔を睨みつけた。
「セレスは、いったい誰だ。アルシア、おまえ何をした?」
「何を言う。セレスはセレスだろう」
能面を顔に張り付けたように感情を表さないアルシアに、ユベールは容赦なく畳み掛ける。
「処刑されたセレスは、セレスじゃない。おまえの顔がそう言っている」
「…言ってくれる」
そこで初めて苦笑いという形で表情をゆるめたアルシアは、ユベールを無視して後ろを振り返った。
「和衷、ユベールが茶を所望だ、淹れてやれ」
「茶じゃなく酒にしろ、和衷」
二人に視線を向けられた使い魔・和衷は動じることなく、小首をかしげる。
「酒か……。主の従兄弟どの、肴の手土産はないのか?」
「ない。そのうちウサギでも狩ってきてやるから、今日のところは文句を言わず持てなせ」
ウサギか…… 仕方がないな。そう言って和衷は支度を始める。
テーブルに置かれたワインは、アルシア、ユベール、セレスの3人が生まれた年と同じヴィンテージ、
肴は、トマトとバジルの胡椒和えに、ブロッコリーとクリームチーズのサラダ、
最後に、一口大のラパン・ソテー (バターソース/オレンジソースの二種添え)が、
ウサギを使ったのだから、必ずウサギを補充しろとばかりに、ユベールの目の前に配された。
ウチは自給自足なんだ、と、トドメを指すようにアルシアが口添えをして、ユベールの顔を見据える。
だが、ユベールはそんな戯言を見事にスルーした。
「おまえはセレスの身代わりを処刑させたのだろう。これでセレスは死んだことになる!」
「それが、どうした。セレスはもう追われないで済むだろう」
「セレスという人間をアルシアが社会的に殺したも同然なんだぞ!」
激高するユベールは、身を乗り出してアルシアの胸元を掴む。それでもアルシアは平然と答えた。
「私はセレスが追われずに生きていければ、それでいいんだ」
「それをセレスが望むと、本気で思っているのか? 」
「ユベール、おまえが思っていることをセレスも望んでいるとは限らないだろう?」
独断でものごとを図るな。どっちが独断だ、勝手なことを抜かすな。
そんな言葉の応酬が、ふと途切れた瞬間を狙って、和衷がユベールのグラスにワインを継ぎ足す。
アルシアは、「乾杯」 と言って、何事もなかったかのようにグラスに口をつけた。
どれほど声を荒げても、ユベールの問いに答える気がないらしいアルシアの様子に、
仕切り直しとばかり、ユベールは改めてソファーに腰を下し、額に手を置いて大きく息を吐いた。
それを見てアルシアがガラリと口調を変える。
「そういえばユベール、彼女を見つけたよ」
揶揄を含んでいるような表情、そして唐突なセリフ。
ユベールは、いったい何を言っているのだと問いたげな、怪訝な顔で眉をしかめた。
「おまえの、あの女性だよ。どうやらかなりの力を失っているらしい」
……ユベールの目が大きく見開かれる。
そのまま息をするのも忘れたかのように、彼はその表情を、その身を強張らせた。
以前から争い事を抱えていた相手と一戦交えた、という話が入ってきている。
まだ辛うじて命はあるようだが。まぁ瀕死と言っていいんだろうな。
それと傷のせいか、力を失っているせいか、記憶が混乱しているという情報もある。
回復までに、どれだけの年月がかかるのだろうな?
……正確な場所は、和衷が知っている。
口止め料だ。ありがたく受け取れ。そう言ってアルシアは、ニヤリと笑った。
「アルシア、和衷を貸せ。いつか返す」
そう叫ぶと、ユベールはきょとんとした顔の和衷を荷物のように小脇に抱え、窓を乗り越える。
彼の表情は、期待に満ちた、それでいてどこかはにかんでいるような、長く忘れられない笑顔だった。
「和衷は取り扱いに気を付けろよ。どこにいても迷子になるからな……」
もう聞こえないだろうと思いつつ、そう言って見送ったのが、アルシアが見た従兄弟ユベールの最後となった。
……3年後、朽ちた古城でユベールは床に伏した。
アルシアはそれを、ひとり帰ってきた和衷に聞いた。まもなく一部始終を語ってくれるだろう。
「主の従兄弟どのも、敵さんも、ぶれない脳筋野郎だったよー」
と、言いながら和衷は、くふw と笑い言葉を紡ぐ。
何か根深い争い事のようだから、彼女の敵が、彼女を見逃すはずがないだろうし、
ユベールには、譲るという選択肢などあり得なかっただろう。
それを思えば、これは、ユベールが彼女に惚れた瞬間から容易に予想ができた、
むしろ疑いようのない結末であった。それでも、
「主の従兄弟どのは、ある意味すごかった。互いに息を整えるたび、ちょっと待てと宣言して、甘い顔で彼女にキスをするんだ。そのたび敵さんの憮然とした顔が……」
めっちゃオモシロかったんだよー、と和衷は、遠慮のない笑い声をたてる。
一戦の最中に、武人としてそれはどうなのだろうか…… とアルシアは首をかしげるも、
和衷の表情から察する限り、ユベールは最期まで、躊躇いも憂いも悔いもなかったのだろう。
「主の従兄弟どのは、どんだけベタ惚れだったんだろうね。指一本動かせなくなった後も、目を閉じるギリギリの瞬間まで彼女を見つめていたよー」
彼女の記憶に、主の従兄弟どのの顔は掛け値なしの笑顔しか残らないかもー? と、和衷がニヤニヤ笑う。
それはずいぶんと幸せなことだ、とアルシアも笑う。
そうして和衷は、ユベールの長く短い3年の物語を語り始めた。
+ + + + +
ARCHMASTER 2018下半期企画 Dark Hero サイト
https://jackthenikotto.wixsite.com/dark-hero
+ + + + +
ユベール 黒沢大和さん ↓
https://www.nicotto.jp/blog/detail?user_id=688666&aid=66858712
ユベールの彼女 (そのうち名前を~~~w) ―――
名もなき従者 改め セレス ―――
使い魔・和衷 和.com ※コーデ画像参照 ユベールがウサギの補充をしてくれなかったことを根に持っているような?
呪術士アルシア 和.com
.
これ改訂版なのか・・
改訂前のも読みたかったなぁ
でも、1からとても楽しく拝読させていただきました。
個人的にはアルシアさんにももっと活躍してほしかったなー
だってカッコいいし!(≧▽≦)
ユベールと和衷ちゃんの3年間のお話も今後楽しめるんだろうか?
らぶらぶなユベールも読めるのかな(´∀`*)ウフフ
さて、ユベールさんのお話も楽しんできます♪
1作ずつ読む楽しみもあるけど
こうして一気に読めるのも嬉しいもので・・♡
ユベールは、どんな状況下にあっても、ベタ甘キャラなのよーw
ユベールのあの美しい世界が生まれたんだね〜^^
ユベールいいね。いい男だ。
戦ってる最中も意識の一端は惚れた女にあるとかすごいねぇ。
あたしも和衷とニマニマ眺めたかったも(。◕ ∀ ◕。)
お疲れ様でした!!!
いい話!
楽しみにしているよ♪
そっちのほうがやる気、失せますよ !(o ̄^ ̄)o
ユベールのほうとは、大和さんと相談しておきます。
そんで振るいつきたくなるような美女を開発しますよーーー。こうご期待w
結果もストレート^^;
しかし一旦書いたものを削除しなくてもよかったんだが。。。
ユベールにラルーとの恋愛話を依頼してしまったんで 全然ラルーとは関係のない魔力を持った女性という存在で書いてもらうか
はい、はい、はいっ (≧∇≦)ノ 以後、充分気を付けます。
ストレートなお叱りを、ありがとうございます❤
和ちゃん「ヴァン・ヘルシング」の余韻が台無しだよ。
本来自分とこの作品を救うためにもう一作、二つの作品を連ねる小説を執筆するのが作法だが、あらかじめ11月ダークヒーロー「ヘルシング」は2話完結としていたのでもうこれはこれで終了する。
それから他の人にはこれ(完結後に他の人間をアンチ:この場合はユベール)としてストーリーを展開し、こういう見方もあるとする手法はやめるように、自分とエメラルドは執筆能力があるからその気になれば自分の作品を再び描いた上で和ちゃんの作品をもいい感じに持っていくことができるのでいいが、そこまで持論を展開するのことを求めない、白けて「もういいよ」となる人の主人公は別の視点からその人の結論を覆すやり方は事前に「このような執筆構想があるんだがいかが?」と聞いてからやってほしい。
哀しい感じで終えるのはイヤだったので~、最後までラルーにだけ甘いヤツにしてみたw
うん、意外にいい締めになった気がします。
キズィ様の相手に手を出そうというツワモノはいないと思われる ( ̄~ ̄lll)
だから、次から次へと恋に倒れる心配はない!
ネコ衛門さんのコーデを見た時から、ラルーはすげーーー美女!だと思ってたんだw
ヴァン・ヘルシング相手には、悪い面ばかりを見せていたようだけど。
相手と状況が変われば、態度も変わるのは悪魔だろうが人間だろうが (*≧m≦*)
二面性を持っているってことで?
ラルーがいっしょに退治されたかどうかは (。-‘ω´-)ンー
悩むところだよねー。
まだ完全復活してない状況と仮定すると、退治する絶好のチャンスではある。
でも、こんなベタベタなシーンを見せられて、いっしょに送ってあげましょう
…というのは、ラルーの心理状態にもよるけど、ある意味、親切だと言えなくもない?
ユベールにかなり甘やかされていた可能性もあるし。
恨み骨髄~なハンターが、そんな状況下で退治するのを、良しとするか?
この時のラルー、ちょっと退治し甲斐がないような気もする。
でも完全復活されたら困るので、見逃す可能性は考えにくいかな。
それにハンターも仕事だから、腑抜けた悪魔など倒す価値もない! という訳にも
いかないよね~?
さて……。
あま~い(//∇//)❤
てゆーか
あのっ どーしよーもない性悪なおたふく魔女ラルーがっ( ̄▽ ̄;)!!
イケメンユベールとそんな仲にΣ(゚∀゚ノ)ノキャー
3年も暮らしたのかー(;´∀`)
それでユベールがヴァン・ヘルシングにやられちゃったとしたら
ラルーも一緒に退治されちゃったのかな(;^_^A
これは残らず友人知人が出てきて恋に倒れたらどうしようw
対策を練るより出たとこ勝負ですね^m^ >キズィvsエネミー5敵+2(ルチアの分)
アルシアの幼馴染貴公子ユベールはラルーのために命を賭して戦ったんだね
吸血鬼ラルー 実はほんまもんの美女であったという新事実が発覚!
おもしろかったー!
おもしろかったーーーーっ!!!
ユベール、いい男だったですー!
このまま死んだんでいいと思うなぁ
その方がロマンティックだ。
あー おもしろかった!! ユベールの回想シーンいろいろ書けそうだね。
和衷の語りも楽しみじゃ❤