Nicotto Town


ヤツフサの妄想


悪魔なので邪神を育てる事にした 32話

~ 邪神と悪魔と魔王 ~




「あ、あなたしゃま方は、その・・・ せ、しぇいなる勇者様、ご、御一行なのでしょうか?」

聖女が噛々でなんとか話す。

国王は驚き過ぎて口をポカンと開けていると言うか、顎が地面に落ちそうな勢いだ。

「勇者じゃと? と言うかここは何処じゃ?」

「邪神様、どうやら私達は召喚されたようです」

「悪魔のお前は人間に召喚された経験が有るじゃろうが、我は邪神しゃぞ? 神を召喚するとかありえんのじゃ」

「どうやらこの世界の女神の力の方が、邪神様より上の様ですね」

そう、邪神様は攻撃や防御に力を使っている時意外は、基本レベル4なので、ボーっとしていると普通のスライムと変わらないのだ。

「じゃ・・・ 邪神だと・・・」

「勇者をお呼び出しするはずでしたのに、魔王よりたちの悪いものが。 ああっ」

聖女が気を失って倒れちゃったよ。

国王も膝を落としてガクガク震えている。

大臣たちは口々に『この世界の終わり』を様々な形容で呟いている。

そこでは恐怖で声すらまともに出せないもの、何とか言葉を紡いでいても絶望に打ちひしがれる者しか居ない。



今までに無い異常を感じたバアルは口を開いて自己紹介を始める。

「私は悪魔バアル。 私を呼び出した者の願いを叶える者である。 お前の望みを言うがよい」

「・・・・」

「どうした。 悪魔を呼び出して望みもないのか。 無ければ我々は元の平行世界に帰るぞ」

「えっ・・・」

「バアルよ、どうやらこの世界は我々の世界の悪魔と、この世界の魔王の区別もつかん様じゃな。 ちゃんと説明してやるがよい」

「はっ、邪神様の仰せの通りに・・・ と言いたいところですが、この世界の事がわかりません」

『えっ』としか言えない国王。

普段は途轍もない威厳を保っているだろう、カーネル〇ンダースによく似た国王の姿は、今頭の中が「?」で埋め尽くされている。

このディーアズワールドでは、悪魔は生まれた時から魔獣と同じ部類で、知能の高いものが悪魔と呼ばれるのが常識。

須らく悪魔の見た目は人間界の猛獣に近いが、二足歩行するものでしかない。

魔力が特別高いわけでもなく、ただ暴力を好み、仕事をすることなく、望みをかなえる事もしないマフィアかテロリストのような存在だ。

数が少ない事だけが救いだが、今ディーアズワールドは、その悪魔がさらに力を付けて魔獣を操る魔王となっている状態である。

この状態で異世界の悪魔が出てきたら、もうこの世の終わりとしか考えられないだろう。



だがバアルの世界の悪魔とは、元は神で有り、宗教戦争で負けて信者を失い悪魔に落とされただけで、基本召喚者の願いを叶えるものである。

例え他の神の信者に異端とされても、人々の願いを叶え、幸せに天寿を全うした魂を取り入れる存在だ。

これは他の神や他の悪魔も同じ。

死んだら光に包まれて神と一体になれるとか、三途川を渡って黄泉の世界に行くとか、地獄に落ちて苦しむとか、結局仕事幸せな魂や苦しみを超えて克服した強い魂を取り込む者達である。

どんな神でも悪魔でもバアルと何も変わりはしないが、人間の勝手に信じる神の信者の数で手に入れる魂が決まっているものなのだ。

そして神だろうが悪魔だろうが、取り入れた魂を綺麗にして人間界に戻す。

輪廻転生、いや魂の循環に、いいも悪いもない。

要するにステレオタイプの思い込みが、差別させているだけでしかない。

因みに話が飛ぶが「死神」は悪魔の仲間ではない、れっきとした「神」であり「農夫の神」である。

熟した果実や、これ以上育つと世界の生命のバランスを崩す魂を刈り取る事で、農夫の様に世の中の魂の手入れをする神で有る。

実り過ぎた果実の間引きによって、より良い魂を作ったり、食べ頃の家畜をドナドナする。

それはどんな基準か人間にはわからない。

故に恐れられるのが「死神」である。

農夫は需要が有れば、子豚だろうが霜降りの牛肉だろうが出荷する存在なのだ。



バアルが返答に困っているので邪神様が「かくかくしかじか」と言う。

それだけで何故か全てを把握する王国の人々。

「では貴方様方は頼みを言えば魔王を退治してくれると?」

「そうじゃ」

「でも魂を獲られるのでしょ?」

「そうじゃな」

「生贄はいかように・・・」

王は国の為ならと、目に入れても痛たくない王女を差出し、他の者に被害がいかないようにさりげなく前に出させる。

若く純粋な女性が好まれるのではないかとの推測からだ。

王女も国王の意図がわかったようで、自分一人の命で世界が救われたらと一所懸命に笑顔を作ろうとしているが、怖いものは怖い。

それを見たバアルは続ける。

「うむ、素晴らしく美しい魂だ。 このままでもよい魂だがまだ青い。 果実は完熟が一番おいしいからな。 あと70年位生きて居られるように病気にならない魔術を掛けよう、」

因みに王女は18歳。

70年後には88歳になるだろう。

しかも88歳になったら病気にかからないと言うだけで、死ぬと言ってはいない。

「へっ?」

国王は意味が解らないようだ。

なのでバアルは事の次第を説明する。

国王は何とか理解しようと復唱する。

「つまり実が熟していない果実も魂も美味しくない。 果実は熟して種が地に届く頃が美味しいと言う訳ですか」

「そうだ。 しかし魂と言う果実は、種を先に外に出した方が種なしで食べやすい。 沢山子を残せばより良い若木が育つであろう」

「それは生贄ではないのでは?」

「私は生贄と言った覚えはない。 幸せに暮らし、結婚し、子を育て、幸せな天寿を全うした魂を取り入れ、また生まれ変わらせるのが私の存在、そして私は昔は豊穣の神でもあった。 私に取り込まれて生まれ変わるものは更に幸せな人生を送るであろう」

国王は悪魔の言っていることが信じられない。

悪魔とは人を騙すものだと信じ切っ要るからだ。

しかしここで機嫌を損ねたら、魔王、悪魔、邪神と言う3つの勢力で絶対にこの世界は助からない。

それでもこの方々は女神が選んだ方なのだ。

国王も王女も王妃も大臣たちも、女神に祈るしかなかったから、この悪魔が現れたのである。

信じるより道は無いのだ。





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