「ああ、私の愛しい人は、どこにいるのだろう…」
「知るか！」

逆さまに吊り下がった男は、鬱陶しくも私の前でため息をつき、物憂げな視線を寄こす。
なんて友だち甲斐のない…とぬかすヤツに、
友だちになった覚えなど欠片もない！ と言葉を返して私は窓の外に目を向けた。



「カードをお預かりしております」

ボーイがうやうやしく一枚のカードを差し出したのは、
ある貴族が主催する仮面舞踏会のメイン会場で、ワインをなめながら紳士淑女を鑑賞していた時だった。
署名は、THE HANGED MAN、錬金術師ルパン。

情報交換がしたいと誘われたのは、そのメイン会場の近くに用意された、賓客のための個室のひとつ。
パーティーの最中に体調を崩すなどした時のための休憩室とされているものだが、
誰も本来の使い方など決してしていない。
試しにそのひとつを、無造作に開けてみれば、十中八九、ベッドの中に火遊び中の人間がふたりいる。
男女ならまだしも、なかには男同士、女同士も稀にある。
そういうのを見つけても、ついウッカリ暴言を吐かないよう、細心の注意が必要だ。

「のぞき見なんて悪趣味だなー」

いくつかのドアを開けて一通り眺めては、部屋を間違いました、失礼… と閉める。
それを数度わざと繰り返したがために、やや遅れはしたものの、呼び出された個室に足を運んだら、
珍しくもない正位置で出迎え、錬金術師ルパンはギャハハハハと楽しそうに声を上げた。

これはのぞきではない。純然たる嫌がらせである。
胸を張って反論すると、どちらにしても悪趣味だ、と一言のもとに切って捨てられた。そうして、

「さあ、心ゆくまで語り合おう」

と言って始まったのが、いいかげん聞き飽きた、ヤツの独演会であった。

THE HANGED MAN、錬金術師ルパン。
ヤツと私は、互いに人を探しているということもあって、何度か情報交換をしている程度の顔見知りだ。
私にとってはヤツは、稀に有益な情報を運んできてくれる相手ではあるが、
その対価となり得る情報を、私から返せたことは一度もなかった。

ヤツはかつて愛した女を探している。
いつの日か、この世に生まれ変わってくるのを、ただひたすら待ち続けている。
その歳月は、数十年とも百年とも言われているが、本人も正確なところを覚えているのかは謎だ。

「彼女は燃えるように赤い髪を持ち……」
「光に輝く金糸のごとく、って言っていたのを前に聞いたが？」

よく狂いもせずに果てしない時を探し続けていられるものだ、と呆れもするが、
すでに半分、狂っているのかもしれないと思う時がある。

「サファイヤのように深く、湖面のごとく澄んだ瞳は慈悲をたたえ……」
「いや、紫水晶のよう、って言ってなかったか？」

そもそもヤツの言葉はあまり一貫していない。

「あの美しくも気高い魂を、この俺が見つけられないハズがない！ なのに……」

ああ、私の愛しい人は、どこにいるのだろう…と振り出しに戻るかのように同じことが繰り返される。
こんなんで本当に見つけられるのか？ 絶対に間違いないと確信できる証拠でもあるのか。
そう問えば、術をもって彼女の高潔な魂にくさびを打ち込んだという。

「キミも術士なら、きっと彼女を見逃すハズはない、だからぜひとも見つけたら俺に知らせてくれ」

魂に…… くさび？ 術師に見える……？
その言葉に、記憶の隅に触れるものがあった。あれは確か……。

私の様子が変わったことに気づいたのか、ヤツは逆さまのまま私のドレスの胸元をつかむ。
逆さまの男の顔がアップになり、その表情が期待に揺れていた。

離せ、ドレスが皺になる、と言ってみたものの、
どこだ！ 彼女はどこにいた？ と紅潮した顔をさらに近づけてくる。
俯瞰して見たら、さぞや気持ちの悪い光景だろう。

「対価を先に寄こせ」

私の言葉に、錬金術師ルパンは、解ったと了承を示し、逆位置になって身を乗り出し、滔々と語り始める。
その情報は過去に例をみないほど、私にとって有意義なものだった。
私は思わず、ニヤリと心のなかでほくそ笑む。

何が起こっているのか、メイン会場からかすかに歓声が聞こえてきた。
窓の外は、先ほどよりも暗さを増している。
夜も更けて客が減り照明を落としたのか、雲が厚さを増し月を隠したのか……。
風に揺れているのか、庭園にしげる樹々の葉が先ほどから私の視界の端をちらちらと掠めていた。

「その女なら先週、死んだぞ」

ヤツの白い顔が、みるみるうちに青白さを増す。
目は虚ろで、焦点が合わなくなっているんじゃないか？ 怖いぞ、おい…。
そんなにショックだったか。まぁ、そうだろうな。

新聞にも裏路地で通り魔が女性を刺殺したニュースが載っていただろう。
現場はお前の隠れ屋敷のすぐ近くだから、喧騒くらい伝わっていたのではないのか？
あの近くに私もいたんだ。その女性の魂に……。

もう百年、ガンバレな？


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ARCHMASTER Presents　2018下半期企画サイト
ARCHMASTER　Dark Hero
https://jackthenikotto.wixsite.com/dark-hero

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錬金術師ルパン （大アルカナ Ⅻ 吊された男）　るーしぇさん
　　　→ https://www.nicotto.jp/blog/detail?user_id=163987&aid=66794729
呪術士アルシア　和.com





週末のゆきやさんの撮影会が舞踏会シーンだったと聞き、
それに合わせてみました。
メイン会場ではなく、片隅というか裏側というか……まぁ端っこの一幕ですねｗ

吊された男 （THE HANGED MAN） ルパン、けっこう好き勝手にイジらせてもらいました。
るーしぇさん、ありがとう～～～ ヾ(≧▽≦)ﾉﾞ

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