前回の日記には、多くの批判が寄せられた。コメントをまとめると「ラーメン３杯なんて信じられない。そういえば、日記は、あんぱんや饅頭みたいに食べることばっかり。何がスイーツ男子かしら、おっさんでしょ。それに、アニメオタクだなんて、きもいわ。しっし」というものだ。

沖人君のやる気スイッチが入った。火曜日の夕食はみかん、水曜日もみかん、そして木曜日はいちじくだ。動物園のおさるさんになった気分だ。

向上心は、好循環を生み出す。社会のテストの点数が良かったら、算数も頑張るぞみたいなものだ。このまま、アニメおたくのままではいけないという自覚が生まれ、知的で教養溢れるおじさまのイメージが出来上がった。

さっそく、通勤電車の中で、アリストテレスの形而上学を読み始めた。しかし、150ページほど目を通したが、1ページも理解できない。

「というのは、なにゆえに二が、消滅的な二（感覚的な個別の二つ）の場合と多ではあるが永遠的な二（算数学でいう二つ）の場合とでは一にして同一でありながら、二それ自体の場合とこれに与る個物の二つの場合では同一でないのか、そのわけがわからなくからである。（第一巻九章より）」

アリストテレスよ、君が何をいいたいのか、わけがわからん。

読み始めて3日目には、法事のお経みたいに、まったく内容が理解できないものをありがたがるより、電車の中では、今までみたいに、二コタで日記で何を書こうか考えた方がいいのかなと思いはじめた。アリストテレスのせいで、日記が更新できない状況が続いて、300コインの収入が得られない被害も生じている。

しかし、最後の向上心を振り絞って、金曜日に大学の先生の話を聞く研究会に参加した。研究会が終わり、席を立ち会場の外に出ようと歩き始めたとき、隣に座っていた女性の膝から携帯が滑り落ちて、運悪く踏んづけてしまった。

「すいません。大丈夫ですか。」
「なんともありませんわ。それに会社の携帯ですし。」
「申し訳ありませんでした。今日の研究会は、興味深いテーマでしたね。」
「はい、会社の偉い人も多く参加している研究会の最中に、どうして、あなが居眠りできるのか興味深かったです。」
「きっと、キラキラボシ集めのせいです。喉が渇きましたね。お茶にでも行きませんか。」

そんなやりとりは、全くなく、隣の女性にキッと睨みつけられて、逃げるように会場を後にした。自席に戻ると、定時まで残り30分。うきうきしていると、上司がやってきた。

「さっき、幹部で会議をしたんだが、資料を早々に作ることになったんだ」
「分かりました。土日でやっときます」
「そんなに急いでやってくれるの。じゃあ、月曜日にそれで打ち合わせをしよう」

どうして、金曜日の夕方に会議をするんですか。月曜日の定例会でやればいいでしょ。そんなに急いでないのなら、月曜日に伝えてくれれば、良かったでしょと、心底思ったが、小心者で口には出せない。

週末は、見つけることができなかった本を探しに行こうと思っていたが、引きこもり生活が決定だ。

心を落ち着かせ、まあじゃんに向かった。おじさん二人と若者二人。若者の一人は入社5年目のK君だ。まあじゃん中の話題は、K君が想いを寄せる秘書室のあかりちゃんとのきっかけをどう作るかと、吉野家の牛どんはどうして美味しいのだろうということが二大テーマだった。

結論は、二大テーマが上手くコラボして、月曜日のお昼にK君が、「間違って、牛どんを二つ買っちゃった。よかったら一緒に食べない」とあかりちゃんに突撃することになった。

K君は、はじめてのまあじゃんだった。まあじゃんに集中しすぎて、一番、恋の悩みを相談してはいけない人に相談したことに、まだ、気づいていない。

三日坊主の話をしようと思ったのに、脱線してばかりだ。アリストテレスのせいで、二コタの日記を考える時間がないせいだ。
塩豆大福美味しかった。やっぱり、スイーツが一番。