Nicotto Town


ごま塩ニシン


夜霧の巷(44)

「先輩。信太盛太郎のことは調べましたか。」
 二宮が、いきなり核心に迫る質問を菅原にした。この逆手に取ったような二宮の言葉に菅原は面食らった。
「いやー。それが思うように進んでいないのだ。まあ、これからだよ。」
 この時、二宮に叱咤されたような錯覚を菅原は感じた。
「警察の方では被害者である信太の調査はしているのか。」
 これは受け身の質問であった。菅原は目を泳がせるようにしてビールを飲んだ。
「当然のことですよ。しっかり調べています。事件の被害者であるかどうかは別にして、事故死であっても、警察は調べていますよ。」
「ああ、そう。」
「そうですよ。変ですか。何故という設定には、受動と能動がありますから。まず、なぜ殺されたのか、なぜ事件に巻き込まれたのか、まず第一に当事者の捜査をしますでしょう。信太のことについて調査した上で加害者との因果関係を推理していく必要があるでしょう。」
「その通りだよ。二宮、君の言う通りだ。俺はね、加害者のことばかりが頭の中にあって、これは事件になるのではないか。こうした意識が先行していたんだよ。さすがプロだね。」こう言ってから、菅原は二宮の耳元に「君は刑事だよ。感心した。」と付け加えた。
 この時、若い店員が大皿に鯛の活け造りを運んできた。
「注文してないよ。」と二宮が掌を広げて、押しとどめようとした。
「これオーナーの店長からの差し入れです。」
 テーブルに大皿を置いて、店員は笑顔で去った。
「君が来ることを、親父さんは知っていたのか。」
「いいえ。何も言っていませんよ。僕は店に来たとしても、普通の客として帰りますからね。店の様子を観察するだけなのです。そんなに度々、来るわけではないから、店員に顔を覚えられてるとは思えないのですが。この席からは厨房は見えませんからね。」
 こう言って、二宮は周辺を見回した。そして彼は指で指し示した。その先に店内の監視カメラが2台レンズを向けていた。二宮の父親は監視カメラで息子の来店を厨房にいながら観察していたのである。二人は完全に脱帽してしまった。




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