夜霧の巷(43)
- カテゴリ:自作小説
- 2018/09/09 13:59:25
注文を聞きに来た若い男性に声をかけてから、二宮は菅原の心中を見透かすように先手を打ってきた。
「先輩が関心を持っておられます、例の運河からの転落事故の件ですが、警察としての仕事は終了しましたよ。」
「ええ。終了しましたって、まだ、何も解決していないじゃないか。」
菅原は唖然としたが、二宮は涼しい顔で運ばれてきた生ビールに口を付けた。
「たんなる交通事故として終了したということです。これ以上でも以下でもないということです。」
「要するに、やる気がないということだね。」
菅原にしてみれば、憤慨しかなかった。
「事故を事件に変貌させるのは、先輩の仕事でしょう。大いに期待しています。」
「何言っているんだ。気楽なもんだね。君にね。そんなこと言われたくないよ。」
機嫌の悪くなった菅原の顔を見ながら、二宮には余裕があった。
「実はね。今度の平凡な出来事で外交関係の大物が動いたのですよ。これだけを先輩に知らせておきたいと思ったのです。」
「外交関係?」
菅原は耳慣れない言葉を大きな声で反復した。
「先輩。声がデカ過ぎます。」
二宮に注意されて、菅原は思わず周囲を見回した。アルコールが入って、みんな自分の話題に熱中している。加えて厨房からの料理音で他人の話は聞き取りにくい。そんなことより、予想外の情報に菅原はとっさの判断に戸惑った。外交関係の大物とは何を意味するのだろうか。今回の事件に外務省が絡んでいるのだろうか。これまで想像したこともない情報であった。
「二宮。君の言っている意味が全然、理解できないよ。一体、外交関係というのはどんな意味なんだね。」
菅原は話しながらも、港タイムスが報じた小さな記事を思い出していた。信太盛太郎が運河橋から転落した際に疑われた青垣勇作という男である。その後、青垣は警察の交通課に出向いて、当時の状況を説明した。この青垣がコーヒーショップ『カモメ』の近くでピストルで撃たれた。しかも、この容疑者と推測される男が事件当日の夜の最終便でTY国へ逃亡したのではないかと警察では判断している。二宮はこうした事件の背景に言及しているのか。菅原は身を引き締めて二宮を見た。
ムロツヨシも小説上手いよ。
次は、南海トラフで、、、、。
せめて、熟睡中に着て、そのまま。。。。