【バルミャウ】 発熱
- カテゴリ:自作小説
- 2018/07/03 12:07:15
ロジェ・ド・シャブランが熱を発して寝込んだ。
よりにもよって、使用人が山といるシャブラン本邸を離れ、
フェ―レース中心部にほど近い超高級コンドミニアムに滞在している時に、だ。
このコンドミニアムに滞在している時のロジェは、
たいがい他者に構われることを厭い、孤独を存分に満喫している。
それをロジェに近しい人間なら誰でも知っていた。
とはいえ、発熱、しかも決して低いとは言えない熱だと聞けば、そうも言っていられないだろう。
使用人を呼べ、と言ったが、ロジェは首を縦に振らなかった。
「リリー様、ヘルプ~~~」
「いま取り掛かっている研究に夢中なの、私。自宅にも帰ってないのよー。そのうち行くわ」
連絡を入れると、最初はしぶしぶながら来くれそうな気配があったのに……
場所がコンドミニアムだと言った瞬間、リリー様はそう言って、手のひらを返した。
「死にそうなら主治医に連絡をして入院させなさい」
いや…そこまで大袈裟な話ではないんですけど…。
でも、苦しそうなんですよ ?!
「夏風邪とか発熱とか、安静にして寝ていれば治る程度なら、ロジェの邪魔をしてはダメよ。ロジェの部屋に入れるなら食事の差し入れだけにしておきなさい」
いいわね、と、逆に釘を刺された。
邪魔… ですか。リリー様でさえも ?! 私は驚きを押し隠し、声を絞り出す。
「かしこまりました。仰せの通りに」
「じゃ、よろしくね」
ロジェと二十年 ? の付き合いを持つリリー様がそう言うならば、きっと従うのが正しいのだろう。
私はキッチンに立ち、ひとまず食べられそうな食材を物色し、肉切り包丁を握った。
ロジェの寝室のドアを開け、そっと顔をのぞかせる。
眠っているようだが、一時間前よりも少しだけ落ち着いているようにも見えた。
私は静かに抱えたトレイをベッドサイドの小さなテーブルに置き、外へ出る。
「さて、もう少しで店を開ける時間だ。急ぐか」
本日のメニュー。
白ワインと香辛料の蒸し鶏サラダ。
ジャガイモと玉葱の冷製スープ。
パンを少し。
おやすみなさい。
.
誰にもかまわれたくないという時があるのは いかにもネコ科のロジェらしい。
猫に限らず動物って 具合の悪い時はひとりで暗くて冷たい場所に行きたがって
そこで体力が回復するまでじーーっとしてる。
ロジェはひとりの時間を邪魔されたら怒るかなぁ?
お使いを頼まれた子猫トリオが高級コンドミニアムで大騒ぎして怒られるっていう話も
おもしろいかもしれないとか思っちゃいました。
さらっとしてるのに 情景が良く見えて リリーの塩対応(的確だけど)に
ちょっと困ってるアンジュっていうのがくすっとくるお話でした。
教えてくれてありがとう!!!!