こちら後編です。ひとつ前のブログ （前編） からお読みいただけると嬉しいです。



後編

ゾエは時刻を確認し、鰐江に目をやり、そろそろ頃合いと見て声を掛けた。

「……何か、お作りしますか」
「同じものを、もうひとつ」
「かしこまりました」

ゾエは新たなグラスを取り出すと、さきほどと全く同じ手順でジントニックを作り始める。
自分ひとりの世界に再び戻る気はないのか、鰐江はゾエの手元を眺めていた。

「カズールがまた寝込んだらしいね。影空間なんか作らせないで私を呼べばカンタンだったのに」
「……なぜ知っている」

極秘事項をサラリと口にされ、鰐江はいつもの柔らかな表情をかなぐり捨てゾエを睨みつけた。

ゾエはかつて、鰐江と同じロイト公安の黒服組、つまり捜査官であった。
接近戦の腕は鰐江に劣らず。
さらに亜空間を作り出す特殊能力を持っており、敵を拘束するのは容易。
さらに、亜空間に作り出した鋭利なドアを勢いよく閉めることでギロチンのように切断するなど、
大量の敵を瞬時に抹殺するのも可能…。
そして、それを使う本人の性格は、ある一方向において過激であった。

それが裏目に出たのが、ある黒服総出の戦いだ…。
ロイト総帥のデコイふたりを含む数人が、敵とともにゾエの能力によって真っ二つにされた。

この時の失態でゾエは、ロイト総帥を本気で怒らせた、と言われている。
事実、処刑こそされなかったが、総帥から100年の禁固刑をゾエはくらっていた。
ロイヤルトレインのバーは、バーであると同時に、ゾエを閉じ込める檻としての役割も持っている。

ただ、その檻も亜空間に作られている。そのため、ゾエにとっては出るも戻るも自由自在。
有名無実な刑罰であった。

「カズールの影空間くらい、私の亜空間をつなげれば、のぞき見るなど造作もない」
「……あのバカが !! 中途半端なマネをしやがって」
「そういうな。可愛いじゃないか」
「アレが好みか !?」
「いや、アレよりはルイだな。あの娘はたいそうな美人だ」
「美人好きか…」
「シャワールームで全身を撫でまわして、ベッドで一日じゅう抱きしめていたいくらい好みだ」

そんなゾエの言葉に、鰐江は珍しく疲れたように、ため息をついた。
時計を見ると、日付が変わって2時。先刻の一声がラストオーダーの時刻だったかと鰐江は得心する。

「言葉遣いが変わっていると思ったら、もう閉店時間か。オマエは相変わらず解りやすいな」
「複雑にしても仕方がないだろう。メンドーなだけだ」

ゾエは屈託のない笑顔を見せた。

ロイト総帥からの禁固刑100年、これは実は見せかけの刑罰であった。
戦いのさなかに、裏切り者を抹殺せよ、との命がゾエに下っていた、というのが真相だ。
黒服の中に裏切り者がいるなど、公には出来ないから、と。
ゾエの失態にして殉死というカタチでことを治める、それが総帥の狙いだった。

本当の失態は、総帥のデコイを巻き込んだことだが、それもまあ… 総帥のことだ。
その壊れたデコイも修復させて、何かに使っているだろう。

鰐江もその時の戦いに参戦していた。ゾエの能力を甘く見ていたことで危うい目にもあった。
からくも難を逃れたが、手にしていた名刀・小狐丸の刃先が折れた。
それに対する不満は今でもある。

が、それ以上に、同僚殺しで刑罰をくらう、という汚名を甘んじて受け入れているのが…。
それを当の本人がメンドーの一言で片付けてしまうのが、鰐江にとっては腹立たしいことであった。

「相変わらず暑苦しい男だな」
「オマエが壊れているだけだろう」
「私が壊れていたら、鰐江相手に手加減はしないぞ」

ゾエの口の端がニヤリと笑う。
鰐江の顔も、いつしか普段通りの優し気な表情に戻り、そこに凄みを紛れさせていた。

ククッ…と笑ったのは、どちらだったか。
ゾエが長さ1800mmはあろうかという棍を手に、カウンターを飛び出すと、
鰐江は腰から刀を抜き、それを弾いた。

「ほぉ…ポラマル鋼の刀か。懐古趣味はヤメたのか」
「俺の日本刀コレクションを、オマエごときに使うのはもう充分、懲りたからな」

言いながら鰐江は返す刀で胴を狙ってくる。
ゾエは後ろに飛んで、その刃先をかわした。棍はリーチがある分、返しが遅くなる。
日本刀の間合いで戦うのは不利だ。鰐江もそれを当然ながら読んでいた。
前傾でゾエを追いながら、さらに返す刀でゾエの首を狙う。

その瞬間。鰐江の体勢が、グラリと揺れた。
鰐江の柔らかな表情が一転、悔しさに歪み、やがて、その顔からふっと表情が消えたかと思うと
どさりと床に伏す。

「相変わらず物騒なヤツだな。次はロイト特製の抗眠剤でも飲んで来い」

ゾエは棍を壁に立て掛けると、床に転がる鰐江には目もくれず、閉店準備に没頭し始めた。

終





みなさま、ご無沙汰しております。
20日の仕事の締めを終えて、疲労困憊の和.comです。

今回の20日締め、予定通りにいかないのを修正しつつ…というのは、まあ、いつものことですが、
予想のナナメ上を走る事態に直面し、チーム全員で連日、22時23時24時 ヾ(≧▽≦)ﾉﾞ

静まり返ったオフィスで、唐突に笑い出すヤツあり、ビール買って来いと叫び出すヤツあり、
デスクに突然つっぷして機能停止するヤツあり、
コンビニで飲み物買ってきます ε=(((((((( *･｀ω･)っ と言いつつ戻ってこないヤツあり、
（スマホからニコっと…にログインして手元でこそこそ遊ぶヤツあり…）
なかなかにオモシロい、手に汗握る締めウィークでしたｗ

帰宅後はキモチよ～く爆睡…といきたかったのですが、
神経が尖がって、頭が妙に冴えまくって、逆に眠れないーーーっという事態に陥り (*´-ω-｀)・・・
開き直って、夜中にチマチマ書き溜めたのが、コレですｗｗｗ

カズールはもう寝込む未来しか見えません。
が、それでもヘロヘロの頭で続きを書くというのが難しかったので、
とにかく鰐江に一撃をくれてやろう、と何も考えずテキトーに次ぐテキトーを積み重ねてみたら
こんな話になりました ?!

明日こそご挨拶に伺わせて頂きます。みなさま楽しい週末を～♬