Nicotto Town


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【ロイト小説】 バーで酒を 前編 


前編

ロイヤルトレインの食堂車両の奥、さほど目立たない場所に扉がひとつ。
開けると、そこは、カウンターに3席だけが並ぶ、小さなバーになっていた。

客は、ロイヤルトレインを頻繁に利用する常連客。
だが、噂に聞いて探してみたが、またはアテンダントに場所を訪ね行ってみたが
扉など見つからなかった、実はバーなど存在しないのではないか。
苦々しく、そんなことを言う乗客は少なくない。
その一方で、何度か足を運んだことのある乗客からも、他者と相席になったことは一度もない、
バーが客を選んでいるのではないか ?! そんな噂がささやかれていた。

そこは、それほどまでに、わがままな場所であった。

営業は、乗客に対しては18時から23時まで。
ロイト関係者には、23時から3時間だけ解放されているが、
その時間が勤務シフトに当たっていれば、当たり前のことだが利用不可だ。
その上、乗客と同じ値段を支払うのがルール、とくれば、利用する人など限られていた。

「おや、鰐江ですか、168日ぶりですね」

ドアが開く音に、バーカウンターの中でグラスを磨いていたゾエは顔をあげ、言った。
いらっしゃい、という一言をミゴトにすっ飛ばしていたが、そんなこと、どちらも気にしてはいない。

「よく覚えているな」
「ここに来るお客さまはさほど多くありませんので」
「少しは働け」
「私は働いていますよ、毎日せっせと、身を粉にして」
「オマエの身が粉になっていたら、俺は100年も前に過労死している」

そう言いながら鰐江はカウンターの中央の席に腰を下ろした。
何をくれ…という言葉は続かない。

「今日は…そうですね、ジントニックなどいかがでしょう。地球の酒です」
「任せる」
「では仰せのままに」

言って、ゾエはうやうやしく一礼する。
丁寧すぎて嫌味にも受け取られかねない言葉と態度だが、鰐江は表情ひとつ変えずスルーした。

「ジントニックとはどんな酒だ」
「鰐江が地球にいた時代には、日本にありませんでしたね…」

ロンググラスをカウンターに置きながら、ゾエは言った。

「ジンの主産地は英国、現在のように蒸留されるようになったのは産業革命の時代と言われています」
「ほぉ…」

ジンの歴史は17世紀、薬用酒として始まる。
その後、アルコール度数が高いわりに安価で手に入れやすいことから、労働者の酒として広がっていく。
それが貴族や富裕層に受け入れられたのは、カクテルが登場してからだ。
ジントニックは、そのジンを使ったカクテルの代表格。

ゾエはロンググラスにライムを絞ると、絞った櫛切りのライムをそのままグラスの底に落とす。
それからグラスの直径より少し小さめの氷、その上に大きい氷を重ね入れ、
氷の表面を滑らすようにジン約45mlを注ぎ入れた。
次に、氷とグラスの隙き間から静かにトニックウォーター約90mlを注ぐ。
最後にマドラーを垂直に差し入れ、氷を一度だけ持ち上げると、マドラーをそっと引き抜き、
鰐江の前にゆっくりとグラスを滑らせた。

「混ぜないのか」
「ジンのほうが比重が軽いので、これで充分です」

かき混ぜると、アルコールと炭酸を飛ばしてしまうので、とゾエが言うと、
酒にトニックウォーターを加えるだけだろう、と鰐江は笑う。

「こんなカンタンなレシピにも作法があるのか」
「……作法という言葉が出てくるあたり、鰐江はやはり日本人ですね」

そんなことを言ってゾエは、中央でふたつに仕切られた長方形のプレートを差し出した。
左には白身魚とパプリカ・紫玉葱のマリネ。
右は、マッシュルームとポルチーニとドライトマトのアヒージョ。
どちらもほんの一口二口といった程度の気取った量だった。

「マリネはビネガーではなく、ライム果汁を使っていますから、ジントニックにもよく合います」
「……オマエのやることは、いちいち気障に見えるな」

それに対しゾエは何も答えず、グラス磨きに戻っていた。
鰐江も返答を求めていなかったのか、それ以上は何も言わず、ゾエの姿を捉えようともしなかった。

夜。どこまで行っても風景が変わらない宇宙にあっても、人は昼と夜を区別したがる。
たったひとりで、このバーに迎え入れられる客は、グラス一杯の酒に一日の締めを求めていた。
だからゾエは、客が話相手を求めない限り、必要以上、口を開かない。
音のない、人の声も届かない無の空間、それもこのバーの売り物のひとつだった。

鰐江の視線は、ただ一点、グラスに据えられたまま動かない。
だが、瞳は何も映してはいなかった。
その意識は、どこを旅しているのか。過去か、見知らぬ未来か、人知れず身の内にある夢幻の世界か。

ゾエは時刻を確認し、鰐江に目をやり、そろそろ頃合いと見て声を掛けた。





ARCHMASTER Presents 壮大な電車ごっこ 〜2018年6月まで

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のちほど後編をアップします。

何が書きたかったのだ !? と聞かれそうな中身のないテキトーな話ですけどねw
ジントニックが書きたかったんですよー。
割合は、信じちゃいけません。 
実際には ジン1 に対して トニック2.5~3 くらいですwww たぶん。
もっと薄いのもあると思いますが (*ノωノ)
.

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2018/04/30 13:09
うぅ。この時間から無性に呑みたくなる話や〜
暑くなってきたしモヒート呑みた〜い(*´ڡ`●)
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2018/04/29 20:24
トニックの甘さが良い時と、甘すぎてダメな時がありますよねー♫
これって体調とか気分とかで違うんでしょうねw
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2018/04/29 18:26

カクテルはノンアルコールもありますからね。
サラトガクーラーなら
(ライム・ジンジャーエール/モスコミュールのノンアル版)
ジントニックの隣に並べても見劣りしないし、
甘いカクテルが苦手な男性でも飲みやすいと思うのですw



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2018/04/29 18:22
あああ、タパスが美味しそう。
少量ってのがまた、酒が主役ですって感じで良いなぁ。
ジントニック良いですよねぇ。あー、飲みたい。


実はネコ衛門さんから、
和.comさんが美味しそうな話書いてるから、是非読んでみて
って、オススメされていたのですよ。
楽しみにしていたんですが…読めて良かったです。

バーテンダーは気障であるのも仕事の内だと思います。
ゾエさんの場合は殆ど素のような気もしますけれどw
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2018/04/24 23:44
ああいいな~、
こんなおしゃれなお店で、気軽に行けるところあったら、
行ってみたい~~。

ま、オットはまったくアルコールがダメだから、一緒に行けないけど(笑)。
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2018/04/22 10:38
(*'▽'*)わぁ♪ なんてオシャレなんでしょ(*´д`*)
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2018/04/22 10:08
ううう…朝に読むもんじゃないですねw
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2018/04/22 10:05
・・・ジンリッキー・・・(朝なのにむしょ~に呑みたい&ライムがない
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2018/04/22 00:34
魔界っぽい!
ゆうなさんが喜びそう
すごいね 前にARCHMASTERでバー作って歌ったんだよ^。^
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2018/04/21 20:14
いきたいーけど客を選んでいそうだよね。
カクテル飲みたいー
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2018/04/21 20:14
キノコとトマトのアヒージョか・・・・
軽くていいかも・・・と何故かそこに惹かれる私w
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2018/04/21 19:58
大人の隠れバーだね。
無を心得てるバーテンダーのいるおしゃれな空間だね
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2018/04/21 19:22
すみません…実は おされでも カッコ良くも… ないんです。。。
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2018/04/21 17:43
うーん
おされなお店ですのぉー. ・:*:・(*´エ`*)ウットリ・:*:・.

いろんな場所の出身者がいるから
ゾエは宇宙のあらゆるお酒に精通してるんだね(๑•̀ㅂ•́)و✧
なにげにカッコ。゚+.(・∀・)゚+.゚イイ!!



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