【ロイト小説】 カズール・コム 0 影 
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【ロイト小説】 カズール・コム 1 雨
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【ロイト小説】 カズール・コム 2 情報交換
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03 愛憎

（どいつもこいつも、言葉が足りな過ぎだろう !! 説明くらいキチンとしやがれ）

心の中で暴言を吐いて、私は深くため息をついた。
頭に浮かぶのは、総帥の鋭利な笑顔と、それとは対照的な鰐江捜査官の柔らかな笑顔。
いや、無理だな…と早々に諦め、私は先刻見たばかりの顔を頭に浮かべた。

豪華クルーズトレイン 『アラビアンホワイト』 に乗務してすぐ、総帥が招待した客だと見せられたのは、
宇宙海賊アレクシスと同じ顔だった。

あれがカラート侯爵か。総帥は、あの男を探れと言うのか。
いや、探るのは、宇宙海賊アレクシスとカラート侯爵の関係、その背後か ?!
謎かけのように解りにくい指令に毒づきながら、私はカラート侯爵の影に忍び込んだ。

「なんて美しい。……ひとつ欲しいな」

アラビアンホワイトの呼び物のひとつである人魚のショーを見ながら、
カラート侯爵は、そんなことを言う。
水の惑星の種族でエンターテイナーとしても有名な人魚たちを、まるでモノ扱いだ。

SPとして側に控えるルイ捜査官は表情を変えないが、内心苦々しく思っていることだろう。

人魚たちはみな一様に表情をこわばらせている。
その反応にカラート侯爵は、クククと嫌な笑いをもらし、目を細めた。

 「私が気に入らないか…。ならば」

ステッキに仕込まれたナイフでバッサリと自分の髪を切り落とし、人魚の前に差し出す。
切られた髪が人魚の目の前ではらりと落ち、人魚たちを怯えさせる。
その反応に満足したのか、侯爵はさも愉快そうに笑った。

　　+　+　+

「侯爵様、本当に人魚を連れ帰るおつもりですか」

アラビアンホワイトのコンパートメント室に戻り、側近のひとりがカラート侯爵に問う。
カラート侯爵は、ふと窓の外に目を向けた。
見渡す限りの宇宙空間、何がある訳でも何が見える訳でもない。
だが、その空間に何かを見出すかのように、

「この世でいちばん美しいものを知っているかい」

カラート侯爵は唐突にそんなことを口にする。

「侯爵様のいちばん、ですか ?! 過日、手に入れられた稀石もそれは美しいものでしたが」

カラート侯爵はふっと鼻で笑い、手に入ったものはもはや美しいとは呼べないよ、とつぶやく。
その言葉は、束の間の静寂に吸い込まれた。
侯爵が何気なく指で弾いたグラスの音が、やけに大きくコンパートメント室にこだまする。

「いちばんは私の姉、アレクシスだ。彼女ほど美しいものは、この世にない」

自分と同じ顔が、いちばん美しいのかよ… どんなナルシストだ、この変態野郎。
そんな感想を心に浮かべつつ、耳を澄ます。

「彼女が手に入るなら、私は豪奢な細工を施した特注のケースを用意しよう」

全身に鳥肌が立つような、ぞわりとした感覚が足元から駆け上ってくる。
次いで襲い来る悪寒に心底、ここから逃げ出したい、と思う。

「アレクシス様は今どちらに…」
「さて…。この宇宙のどこかで、今も俺を憎んでおいでだろう」

自嘲するようなセリフに反して、夢を見るような、陶酔するような笑みに私は思わず、顔を逸らした。

深夜、寝静まるコンパートメント室で、私は影の中からカラート侯爵の顔を眺めた。
影の能力は、死体から生前の記憶を引き出す。
では、眠っている人間の記憶は ?! ……何かを見せてくれるだろうか。

私が初めて死者から生前の記憶を引き出したのは、幼馴染みの火葬の前日だった。

あの時、私は怪我をしていたが、無理を押して幼馴染みのいる暗い地下安置室に会いに行った。
幼馴染みはすでに蝋人形のようで、人としての面影をあまり残してはいなかったが、
それでも私は、幼馴染みの名を呼んだ。

呼んで、呼んで、呼んで、涙があふれるのも構わず呼び続け……。
そうして私は目の前に、知らない男の姿を束の間、見た。
初めて見る男だったが、幼馴染みの惚れた男なのだと、すぐに解った気がした。

側にいない男を、死んでまで大事にするのか。
あんなに悲鳴を上げ、あんなに苦しんでいたというのに。
あの瞬間、私は怒りを感じていたと思う。
幼馴染みを選ばなかった男と、周囲を嘆かせてなお、男に想いを残す幼馴染みの、両方に。

……ひとつを思い出すと、次から次へと連鎖をしながら、いろいろことが甦る。
仕事中だぞ、カズール。自分を叱って、私は、目の前のカラート侯爵に意識を集中させた。

「デズモンド、止めてーっ」

叫んだのは、ドレス姿のアレクシス。少し離れた場所で立ちすくんでいる。
いちばん手前に見えるのは、カラート侯爵。その手には剣が握られ、男の胸を刺し貫いていた。
男の身体が力を失い、その場に崩れ落ちる。
アレクシスが駆け寄り、男の身体を支えながら、カラート侯爵を睨みつけた。

強い意思を持つ怖ろしい目だ、と私は思った。

　　+　+　+

そんなカラート侯爵から得た情報を鰐江捜査官に報告した翌日、私はその鰐江捜査官に呼び出された。
オマエの情報をもとに調べた結果、と前置きして語られたのは、病的シスコンの顛末だ。

カラート侯爵が殺したのは、アレクシスの婚約者。
愛する姉に 〝愛された男〟 を殺し、結果として姉に憎まれた……。
簡単に言うと、どうも、そういうことらしい。

私は 〝俺を憎んでおいでだろう…〟 と言った時の、侯爵の陶酔した表情を思い出していた。

姉・アレクシスに殺されるのなら、カラート侯爵は本望だと言うだろうか。
それとも、もろともを狙うだろうか。逆に返り討ちにして、特注ケースに仕舞うだろうか。

「今度こそ、動くぞ」

どちらにしても望みは叶いそうにない。鰐江捜査官からGOサインが出たのだから。

「護衛はどうしますか」
「ハーレムの女か。全部で何人だ」

カラート侯爵は、ハーレムのように美女たちを引き連れて乗り込んでいる。
あどけなく愛らしい女から知的そうな女、妖艶な女までバリエーション豊かだが、
その女たちは皆、いざという時、ドレスの裾を翻し、武器を振るう侯爵の盾でもあった。

「8人。プラス侯爵と側近で計10人になります」
「まとめて片づけよう。ルイ、サクラ、イリヤを召喚する」

了解しました、と私は簡潔に答えた。

ARCHMASTER Presents 壮大な電車ごっこ　〜2018年6月まで

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今回るーしぇさんに画像撮影つきあって頂きました。ありがとう～❤

このカラート侯爵、自分で作ったキャラですが、書いていて真剣に気持ちが悪い……。
さっさと片付けようと思います～～～ ヾ(--;)ｫｨ
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