夜霧の巷(1)よぎりのちまた(第一章)
- カテゴリ:自作小説
- 2018/03/25 17:20:38
港街は霧に覆われていた。高台の新栄街区から夜の港街を見下ろすと灯台の灯が三色の輪に見えた。地下鉄の最終列車の10分前になって、客は席を立った。北川美佐は預かっていた客の手提げ鞄を持つと、素早くカウンターから出て、ふらつきながらドアに向かってくる初老の男の背中に背広を被せた。
「ありがとうよ。今日は悪酔いした。久しぶりに来たからな。」
男の名前は信太盛太郎(しのだせいたろう)と言った。店に来たのは夕方の6時頃であった。クラブ霧笛では古くからの客であった。常連と言っても、月に二度くらいだが、美佐が霧笛に勤めるようになって7年目になるが、この時以来なので親しみの持てる客であった。五階建てのレジャービルを出ると、雨がポツリと落ちてきた。
「傘、持ってくるから、待ってて。」
美佐の声を無視するように信太は港へ向かう一直線の緩やかな坂道を歩きだした。途中、国道に出る道と地下鉄の港駅へ出る道とに分かれている。この巷(ちまた)を過ぎると運河に架かる橋があって、この橋を渡ると地下鉄の入り口があった。美佐がビニール傘を持ち、ビルのエレベーターから道路に出た時には、信太の姿は夜霧の中に消えていた。雨は小降りになり始めていたが、美佐は追いかけていく気になれなかった。そこまでしなくてもいいという、自分の中で押しとどめる思いがあった。
「傘、持ってくるから、待ってて。」
美佐の声を無視するように信太は港へ向かう一直線の緩やかな坂道を歩きだした。途中、国道に出る道と地下鉄の港駅へ出る道とに分かれている。この巷(ちまた)を過ぎると運河に架かる橋があって、この橋を渡ると地下鉄の入り口があった。美佐がビニール傘を持ち、ビルのエレベーターから道路に出た時には、信太の姿は夜霧の中に消えていた。雨は小降りになり始めていたが、美佐は追いかけていく気になれなかった。そこまでしなくてもいいという、自分の中で押しとどめる思いがあった。
コピー機話がよかった。