おすがり地蔵尊秘話(29)
- カテゴリ:自作小説
- 2018/03/14 13:15:30
硝子戸に人の影が映ったので、私は必死の覚悟で思い切って硝子戸を開けた。
庭に蹲るように人が座っていた。
「まさか、お地蔵さんではないよね。それとも、あんた、泥棒かよ。ここには金目のものは何もないから。」
私は庭に向けて仁王立ちになった。
「いやー。申し訳ない。起こしてしまいましたか。重ねて、もうしわけございません。なにも、怪しいものではありません。ただの托鉢僧です。名前は運善といいます。決して怪しいものではありません。昨日、この辺りを通りかけますと、お地蔵さんが地中から出てこられたという噂を、お聞きしましたものですから、お経を上げさせていただいておりました。」
寝起きだったので私の視力も濁っていたのかもしれない。しっかり見ると、僧侶姿の小柄な人物であった。
「托鉢ね。そうか。僕はね、一瞬、お地蔵さんが人の姿になって、現れたのかと錯覚したよ。お経をあげてくれたのなら、お礼にコーヒーでも入れるから、まあ、遠慮せずに、上がってください。」
私は手招きした。托鉢僧は恐縮しながらも、ホーム炬燵に寄って来た。
「昨日は、どこで寝ていたのかね。」
「玄峰寺の住職にお願いして、本堂で休ませていただきました。」
「ほう、それはよかったね。」
着ている法衣は、よれよれだが、どこかに剽軽な雰囲気のある顔だちであった。
「宝田住職には毎年、御厄介になっております。まあ、同じ宗派なものですから、この地方に寄った時には、お邪魔しているのです。」
「ほーそうなの。それで、ご住職は地蔵さんのことで何か、言っていましたか。」
事情が分かってきたので私は踏み込んだ質問を投げかけた。