おすがり地蔵尊秘話(27)
- カテゴリ:自作小説
- 2018/03/10 18:07:54
これが民衆の力なのだろう。法会が始まる前には地蔵尊の周囲は色とりどりの花で飾られ、用意されたお供え物の大きな台に饅頭やらスナップ菓子、よもぎ餅、チョコレート、それにお餅などが山盛りに供えられ、お酒の一升瓶が三本も並べられていたのには驚くばかりであった。それだけではない。地蔵像の発見ということで注目したテレビ局や新聞社の腕章を巻いた記者たちが取材にやって来て、集まって来た住民の周囲を取り囲んでいた。テレビ局のアナウンサーの取材をうけている人もいた。
「これは地蔵さんのデビューかもしれんな。」
私は隣にいた土建屋の平岡賢作に言った。
「ほんまですな。テレビに出たら、えらい評判になりまっせ。」
もう、彼はこらえきれないという顔をした。息子の健吉はスマホで写真を撮っていたが、スマホだけでは満足できないのか、一眼レフのカメラで角度を変えて何枚も写真にしていた。
「さっき、知り合いにメールで写真を送ったら、ユーチューブに投稿しろと注文をつけてきたがな。ヒットしたら、この地蔵さん有名尊に変身するやろなー。」
この息子の表現に私も思わず笑ってしまった。
「有名尊か。いいネーミングやね。」
玄峰寺の住職のお経が流れると、和尚に唱和して念仏を唱える年配の人もいた。多くの日が数珠を持っていたが、私は手ぶらで、ただただ見守るしかなかった。どうして、小説の完成を祈願しなかったのか、自分ながら不思議であった。法会の儀式が終ると供えられたお菓子などは平等に分け与えられた。みんな笑顔で、喜んで地蔵さんからの功徳を貰って帰った。
家主と宝田住職が来て、こう言った。
「木原先生。申し訳ないが、今日はこうした行事がありましたので、離れの部屋で慰労会をしたいのですが、部屋を使わしてもらえませんか。」
「ああ、いいですよ。どうぞ、どうぞ。」
私が了承すると、お酒が部屋に運ばれて、打ち上げの飲み会が始まったのである。
キリスト教も、仏教も、常識も、知っていることが、大事だろう。
正直、嫌いですが。