Nicotto Town


ごま塩ニシン


おすがり地蔵尊秘話(7)

「どういうこと。不安定というのは?」
 私は耳を疑ったので、改めて質問した。
「私たちの家に来られた時は、多少、興奮しておられましたが、夜、寝られなくなってきまして。夜中に、『お前、やる気か』と叫ばれたりしましてね。情緒が不安定になってきたというか。それで優子が精神科へ連れて行こうかと言ったのですが、僕は疲れておられるのだろうと考えて、ずっと、様子を見てきたのですが、やっぱり、お母さんの頭から毒のイメージが抜けないようですね。」
 娘婿に説明されて、私に反論は何もできなかった。しばらく沈黙をした。
「それで、どうすれば、いいのだろう。秀子は、どうしたいと言ってる。」
 私としても対応のしようがなかった。
「まあ、あのー。お母さんが言われるのには、別れたいということです。」
「ふーん。そういうことか。」
「何度も、お母さんに、お父さんと別れるにしても、家に帰って、話し合ってくださいと説得したのですが、顔を見るのが怖いと言って、身震いするのですよ。」
「俺に毒殺されると妄想しているのだろうね。まったく、馬鹿げているよ。」
「優子も僕も、お母さんを、いろいろと慰めてきたのですが、お母さんの精神状態も不安定ですし、これ以上、私たちも、どうすればいいのか、分からなくなりましてね。それで、お父さんに実情を話して、相談してみようと思ったのです。」
「俺と嫁さんが離婚することについて、君は賛成なのか?優子はどういう意見なんだね。優子は離婚に賛成しているのか。」
「それは、お父さんが決めるべきことで、私たちはお二人が決められた結論を尊重するだけです。特に意見はありません。できるだけ、ご夫婦が御一緒に生活されることを願っていますが、それが無理であれば、仕方がないです。」
「なるほどね。要するに離婚しろと言うことか。ここまで言われたら、俺だって、冷めてくるよ。それにしてもだ。俺がこの家におれば、帰ってこられないというのであれば、こうしよう。離婚するのがベストであるのなら、いつでも印鑑を押すことに、やぶさかではありません。秀子に、はっきりと言ってもらっていい。ただ、その前に、とにかく俺が、この家から出ていくので、どこか田舎の古屋でも探して、しばらく別居するから、秀子がこの家に戻って、もう一度、じっくり考えてから、離婚届に判を押すことにしようと思う。これで、どうかな。」
 私は啖呵を切るように言い放った。




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