Nicotto Town


ごま塩ニシン


おすがり地蔵尊秘話(3)

「もうね。あなたには愛想がつきたわ。しばらくの間、優子の家に行って相談してきます、食事なんかも勝手にしてください。何かと言えば、小説、小説といって何年暮らしてきたのですか。いい加減にしてほしいわ。まとまりもしない文章を書いては紙屑を作って。おまけに私が殺されでもしたら、こんな不幸ってないでしょう。もう、あんたと一緒に生活するのが嫌になったわ。」
「何も、そう短気を起こさなくてもいいだろう。」
「短気ですって。結婚して以来、いかにも作家のつもりで、数十年、辛抱してきたのは私ですからね。だけども、今日のことで、踏ん切りがついたわ。国立の大学を出てるのに課長にもなれずに定年を迎えて、まだ小説、小説と。一体、なんなのよ。文学賞の一つももらえない。いい加減にしてよ。笑いものじゃない。」
 ここまで言われたら、私に言い返す力はなかった。嘘ではないからだ。課長にもなれず、賞にも無縁とくれば、妻の秀子には感謝しかない。私自身、このまま老化という雪が降り積もるように何もできないまま埋もれ、消滅してしまう予感がする。これ以上、応援してくれとも言い難い。見捨てられても、当然かもしれない。
 バタバタと足音を残して、秀子は家を出て行った。
 優子というのは一人娘で、地方公務員の夫と隣町で生活している。3年前に新築の一戸建てを購入したが、子供が出来ていない。自宅で優子は英語塾を開いている。経済的にも余裕ができてきたのか、しきりに遊びに来ればと、秀子に誘いの電話がかかってくる。こうした状況もあって、腹立ちまぎれに優子の家に行っても可笑しくない条件が整っているために私は特に驚いた気持ちになれなかった。その内に熱が冷めれば、家に戻ってくるだろうと考えた。ところが、私の楽観的な思いとは別に事態は飛躍していった。
  翌日、優子から連絡があった。
「お母さんの気持ちが落ち着くまで、私の家にいてもらいますから。お父さんの小説に対する執念は分かりますが、あんまり誤解を生むようなことはやめてほしいわ。正直いって、お父さんに人を殺す勇気はないと思うから、安心しなさいとお母さんに説得しているのよ。」
 こう言って、優子は笑った。
 何が可笑しいのだと、私は腹の底でつぶやいた。俺だって、怒り狂えば、どんなことをしでかすか、おまえら想像したことがあるのかと叫んでいた。

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2018/02/03 22:16
ごま塩ニシンさんこんばんわ
ところで、この物語はもう始まっているんでしょうか?
それとも、まだ枕の部分なんですかね?
まさかと思うけど、おすがりになったのはお地蔵さんじゃなくて、観音様なんでは?
せんだって優子さんの所へ引っ越して行ったさ。



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