【三夕の和歌】どうにも止まらない、俺自慢な3人
- カテゴリ:小説/詩
- 2018/01/18 23:39:43
以前この歌を題材にしたショートショートを書き込んだのですが、何のコメントもいただけませんでした。
ちょっと侘しいので、改変してリベンジです。
まず初めに『秋の夕暮れ』の侘しさを詠んだ、三つの和歌を紹介いたします。
「さびしさは その色としも なかりけり 槙(マキ)立つ山の 秋の夕暮」 寂蓮法師
「心なき 身にもあはれは 知られけり 鴫(シギ)立つ沢の 秋の夕暮」 西行法師
「見渡せば 花も紅葉も なかりけり 浦(ウラ)のとまやの 秋の夕暮」 藤原定家
何の情報もなくいきなり物語を始めたのが、理解不能に陥った原因と考え少々前振りをいたします。
槙(マキ):常緑針葉樹である杉や檜などを指す言葉。
鴫(シギ):秋になるとシベリアなどより渡ってくる鳥。
浦(ウラ):海が陸地に湾曲して入り組んでいる地形、集落を指す。
この槙(マキ)・鴫(シギ)・浦(ウラ)を擬人化して物語を始めます。
さて、この者たちがここへ住み着いたのは、はるか昔のことであった。
初めにやって来たものがあり、名前はまだなかった。
ところが、鎌倉に武士の都を築いた大層な男(源頼朝)がおった。
この男は、周辺の荒武者を従えるため地方(三原や富士)へ下って行った。
「荒武者よ、獲物はいずこか?」
「はい、あれにござそうろう」
「ああ、何という事だ、これほどとは」
荒武者の指した方角には、すっくと立ちあがる姿があった。
「あれは、なんといふ?」
「マキにてそうろう」
男はこの後、これを嗜むようになり行事とした。
マキ狩りの始まりである。
なんか間違っている、とのご指摘は、まったくその通りである(実は巻狩り)。
こうやってマキは、この地にありと、広く知られるようになった。
一行が立ち去ると、辺りを静けさが立ち込め、無限とも思えるほど時が流れていった。
マキは寂しかった、その寂しさが色を薄め、明暗のみが姿を支配した。
詫び寂びの時代が幕を開けた。
やがて都では、末法思想が広がり、その波が押し寄せてきた。
荒波が飛沫をあげて風に乗り、二番目のものがやって来た。
「祗園精舎の鐘の声、諸行無常の飛沫(しぶき)あり」
この文言が、このものの徳の高さが窺われる思議とあいなった。
しかしこの思議は、常ならざるを持つ故、及ばざるシギと成り下がった。
「おまえ、それを言うなら『響き』だろ」
あたりの静けさを受けて、無情に浸っていたシギはたじろいだ。
「そ、そうとも言うが、ともよ」
「何がそうともだ、来たばかりで友は言いシギだろ、別にいいけど」
すると2番目のものは、静けさの中にわずかな安らぎを覚えた。
名をシギと呼ばれ、ちょっぴり嬉しかった。
この会話には、年輪を重ねた者のみが持つ、一種の冬の到来を感じさせた。
あたりは一瞬にして葉が落ち、花を失い、静けさが加速して辺りを凍り付けた。
普通に寒かった。
そこへ3番目のものがやって来た。
「どうしたことか、未だかつてこのような寂しさは、味わった事がない」
「おい、お前、やって来たばかりで、何の寂しさを語れよう」
こう言い放つシギに、マキが割って入った。
「そう言うおまえモナー、俺の方が寂しさ先輩だ」
どうも先に居た寂しさ先輩は、俺の方が偉いのだと言いたいようである。
後からやって来た違いの分かる男が力説する。
「ウラだって、ノコノコ此処へやって来たわけじゃあない」
「なにがウラだ、せめてオラと言え、この田舎もんが」
何だか訳の分からない言い争いにマキは、シギを制して提案した。
「自分がどんな寂しさを経験したか、ケリを付けようじゃないか」
「望むところだ、マキよ」
「なかなか良い考えだ、ウラも賛成する」
こうして三者三様の、俺自慢が始まった。
まずワシからだ
「さびしさは その色としも なかりけり」
「どうだ、これでケリを付けよう」
「何だよ、ギャグ自慢かよ」
マキに突っ込みを入れて、続けるシギ
「心なき 身にもあはれは 知られけり」
ウラも負けずに語りけり
「お二人さん、それでもケリを付けてるつもりですか」
「ウラのを聞けば、考えも変わるはず」
ウラの余裕は、都仕込みであった。
「見渡せば 花も紅葉も なかりけり」
「何だよ、そんなの、まんまじゃねえか」
「そうだそうだ、シギのいう通りだ」
このもの達の会話をよそに、透き通るような冷たい風が渡っていった。
黄昏はやがて赤みを帯び、秋の夕暮れが続くと、一層この者達の寂しさを引き立てた。
おしまい
コメントありがとうございます。
訓読みとヤマト言葉って面白いですよね。
はじめに読みがあり、あとから漢字を当てたみたいな
同じ読みにいくつもの漢字が当てられているのを並べてみると
傘・笠・嵩とか、ひらがなだと、かさにきる・かさなる・かさがある
『かさ』って縄文から続くヤマト言葉なのでしょうか。
深読みかもですが、興味をそそられます。
私も大和言葉は少し興味があり調べた事があります^^