霧の鷹留城と矢背負稲荷【その2.2】
- カテゴリ:自作小説
- 2017/12/16 13:49:31
2.2
『其方には既に力を開放した』
「そうですか、何やら不思議な自信のようなものは感じます」
この力を授けし龍首は、闇龗神の化身、地域の守護神であると云う。
『付いて参るが良い』
すると洞窟内にあった灯は、周囲の岩壁を押し広げて上方へ広がり、ついに天空へと貫いた。
まんまるお月様は、既に天空から降りて、西の空へ沈もうとしている。
龍首は月を追いかけるように上方へ舞い上がると、青白き光を帯びたその胴体もうねる様に続いた。
「どうやって、登ってゆけば良いでしょうか?」
『すでに力がある、我と共にあろうと念ずるのだ』
私は上方より小首を曲げて言う、龍首を仰いだ。
「やってみます」
私は淡い桜色の輝きに包まれると、足が地から離れて駆け出していた。
まるで空を海のように、自由自在に泳ぐ小魚のようにであった。
『其方にこの地の昔を語ろう』
「はい」
榛名山の上方高くから、黒髪山を見下ろした。
その北方には、いつの間にか轟音と共に火柱が上がっている。
古代榛名山麓には、隆盛を極めた毛野氏の一族が蔓延っていた。
山肌の草原地帯に、大陸から持ち込んだ馬を放ち育てていた。
火柱から躍り上がった焼け岩が、これらを飲み尽くしている。
『見よ、これが人のい思いあがった故の行く末じゃ』
「なぜ此れをお見せになるのですか?」
『あの辺りに、私の使いが働いておる』
「あ! 火を防ぎ、従うものを導いているように見えます」
『その通りじゃ、悪を良しとせず只生きるに精いっぱいのもの達を助けておる』
「どうしてでしょうか?」
『私を頼みにする者のみが、使いに従えよう』
人とは、己の力を持て余すと間違った使い方をする。
その為に毛野氏は、半島まで出兵して戦ったその振る舞いを咎められたとも言えよう。
『天災・人災に限らず、この地を守るために力を使うのじゃ』
「私の母は、正しい力の使い方を学べと言われました。正しいとはどのようでしょうか?」
『簡単な事じゃ、己の為ではなく他の者の為に使え』
「己の為に使ったらどうなりましょう?」
『己自身が暗闇の淵に沈んでゆくであろう』
「そうですか……」
『其方の心は読める、相手の為ならば良い』
「私の為なら?」
『使いに選ばれたとて、誰もが正しくは使えない、学ぶのじゃ、暗闇の淵に沈まんようにな』
「はい」
眼科には、駆け巡るように様々な様子が映し出され、一度に観られぬほどであった。
とうに月は沈み、東の空が暁を覚える頃になると、母の待つ穴倉に舞い戻った。
つづく
黒髪山と称しているのですが、地名の由来については調べたことありません。
従って、吉春氏の解釈で物語を書き進めてください。余計なことを言って、
迷わせてしまったと反省しています。地名由来伝説を独自の解釈で進めて
ください。当方も作品を書き進めます。お互いに完成させましょう。