封印された遺書(2)
- カテゴリ:小説/詩
- 2017/12/09 14:05:20
1年後、パークショップで『よろず生活館』を開設しましたと挨拶状が北野から届いた。北野が住んでいる南海沿線の団地で中央広場にある公園にパークショップが新設され、この一角に小さな事務所を開設したというのであった。挨拶状には手書きの追記が添えてあった。北野は司法書士の資格を取得したが、2年後輩の古屋氏が弁護士になったこともあり、彼を顧問に迎えて『よろず生活館』を開設しましたと書かれていた。君岡は梅田地下街で北野と再開した時のことを思い出して、電話を入れた。低音の北野らしい声が電話口に響いた。
「予定通りのオープンおめでとう。」
「いやー。小さな事務所でね。一度、見に来てくれ。事務所は小さいが団地公園内に出来たショップだから、いろんな店があって、地域の人が立ち寄っていくんだよ。それでさ。君は旅行社をしているのだろう。パンフレットなんかを店の前に並べておれば持って帰る人もいると思うんだ。もし、よかったら、お互いに協力し合えると思うから、一度、考えてくれよ。」
「ほんとか。それはありがたいなー。」
「ただし、来てくれる日は事前に連絡してよ。おれはさ。宣伝するために、今、周辺にビラを配って歩いているのよ。だから、留守の時は困るだろう。」
「分かった。」
2日後、君岡は『よろず生活館』へ訪ねて行った。
駅前広場を抜けるとマンションが建ちならんおり、中心となる公園には樹木が植わっていて、子供たちが遊べる遊具もあったが、集会所が公園の一角にあって、この建物に接してパークショップが20軒くらい入居できるブースが設けられていた。木工や手芸、書道教室、リサイクルショップや北野が開設した『よろず生活館』といった法律相談を兼ねた行政手続き案内もあった。
「うまいこと抽選にあたってな。ある程度の選考があったが、顧問をしてくれることになった古屋の弁護士資格が効いたのかもしれないな。」
北野は、こう言って豪快に笑った。
事務所は3坪ほどでコピー機やデスクが二つ置いてあっただけだが、まだ、始めたばかりで備品も順次買い集めていくつもりだと言った。君岡は持参した花をどこへ置けばいいのかと、一瞬、迷ったくらいであった。