霧の鷹留城と矢背負稲荷【その1.1】
- カテゴリ:自作小説
- 2017/11/27 00:08:26
1.1
梅が薄紅色のつぼみを膨らませると、野山は柔らかな光に当てられて輝きを増している。私はその時、野ネズミなどの小動物が土から這い出して来た虫を目当てに、嗅ぎまわるのを眺めていた。
すると里から沢伝いにの少年がやって来た。蓬色の直垂に袴姿で、髪は長く馬のしっぽのように後ろで束ねている。脇差を背の方に回して下げ、たすきを掛けて沢の本流から離れた、少し水が温んでいる辺りを這い回っている。
「お! あったあった、ここん所暖けえから出てると思ったんだ」
嬉しそうに芹を摘む顔は、朗らかに流れる沢の水面に照り返され輝いて見える。水色の空に浮かんだ、ふわふわの真綿のように弾む、そんな彼に出会ったのは、その時が初めてであった。
私の頭上を悪戯な春風がそよぐと、枯れ枝が折れて落ち草むらをかき乱した。さっとこれを避けて脇へ飛びのくと、彼は何事が起きたものかと目をこちらへ向けてくる。
「あれ? どうしたんだお前」
まるで愛らしい小動物を見るような眼差しに射すくめられてたじろぐ私。彼が沢から上がり、こちらへ近づこうと足元を見た隙に身を隠した。
「あらま、いつの間にか居なくなっちゃったか」
辺りを見回して私の姿を見つけられないと、残念そうに籠に詰めた芹を覗き込む。
「まあいいか、こんだけ取れた事だし上々かな」
そう言って気を取り直すと、満足そうに頷き里へ下って行った。私はそれを遠くまで見送ると、後ろ髪惹かれる思いで駆けだして林の中へ逃げ込んだ。
大久保の谷津に暮らす夏目家は、代々続く家柄であるが親兄弟が討ち死にし祖父母と暮らしている。
野山に戯れていたある日、一匹の白狐を助ける。
吉春の心に触れ好意を抱いたこの白狐は、黒髪山の神に助力されて妖力を得る。
娘に化けて吉春に近づくが相手にされず悲しみに浸る。
勧進比丘尼を母に持つ『すず』と楽しく過ごす姿を見た白狐は嫉妬してやまない。
ある時『すず』は武田の乱取りに合い命を落としてしまう。
これを見殺しにしてしまった白狐は、吉春の悲しみを見て後悔する。
妖力を使い『すず』に乗り移り、『すず』として過ごす。
この春より戦人としては衰えた祖父にかわり、戦のおりには家を代表して出陣することになった。
永禄9年5月、妖狐が吉春の思い人に載り移って、鷹留落城から救い出すお話し。
こんな感じの物語にしたいのだが、女子の恋愛感情とかよう分からんので難儀しておるのです。
コメント戴けたら幸いです。
頑張って続きを書きとうございます。