VR戦国ファンタジー【その3】
- カテゴリ:自作小説
- 2017/11/21 10:15:37
3.インしたお
頭上の点滅に気が付くと、すっと体が軽くなったような感覚と共に意識が遠のき、気が付くと板の間に正座している。
「聞いとるのか、吉春」
ぼーっとしている頭にいきなり火花が散った、きっとそうだ、端からしたらそう言うエフェクトが掛かって見えてるはず。
「いてっ、いたいよ、おじいちゃん」うそ、マジ痛い、とことん痛い、これが全身感応フルだいぶか。
「お前はもう子供じゃない、元服したんだ、後は手柄を立てて、嫁を貰わねばならんな」
俺はこの言葉に癒され『嫁を貰わねばならん』いきなりですか、このゲームはなんと言うハッピーな展開。愛してるお八神ちゃん、ナイスシナリオ。
でも、俺おじいちゃんて言ったよなさっき、違和感なく自然に、よく見ると見覚えがあるな、よく出来ている。
「お前の烏帽子親(元服時の名づけ親)が、娘を許婚にしても良いと言って来ている、手柄次第じゃが」
おお、筋書き通りか。だが待てよ、好みじゃなかったらどうする? そうか手柄次第か、なら女子を見てからで、嫌なら手柄を立てなきゃ良いのだな。うんわかった。
「おじいちゃん、おれ頑張るよ」
「そうか、そのまえに使いを頼む」
もうフラグが立っているようだ、懐から手紙を出して、これを渡すようにと言ってきた。
「はい、かしこまりました、それではさっそく」
なるほど、これが初めてのお使い(クエスト)なのだな、よくあるパターンの。
俺は家を出て、さてどうしたものかと辺りを見回していると
「おお吉春、何処へ行くのかな?」
そうだ何処だろう、手紙を見ると【湯あみ極楽院】なんとなくここだけは読める。
「それならそこの門を出て左手の、ほら、あそこの大きな松が生えたあたりじゃ」
(こやつ、あそこへ修行に行くのか、初陣だなw)
「赤石様、ありがとうございます、行ってまいります」
あれ!なんで俺知っているんだ、この怖そうなデカそうなおっちゃん。は!烏帽子親様か。
「うんむ、はげめっ」
て事は、このおっちゃんの娘…… 想像したくない。松を目印にやってくると。
その門前では馬をつなぎ停める為の横木に腰かけて、長刀(なぎなた)を抱えながら脚を足首の所で重ねて、前後にぶらぶら揺らしてるのが見える。
どうも俺より小ぶりな身体は、暇を持て余しているようだ。全暇をちら付かせて来ている。
近づくと俯いて長い髪を襟元で束ねた頭を持ち上げてきた。
目が合った、やばい、見なきゃよかった、あの娘だ、あの目だ、蔑みのような塊を投げてよこすあの眼だ。
とっさに目をそらし、どう見てもわざとらしい手足を交互させて通り過ぎようと試みた。
「ねっ、無視するわけ、通り過ぎちゃうわけ、そうやって何、壁でも作ってるつもり、ばかでしょ」
やはりだめか、当たり前だな、だがどうする、どう切り抜けたらいい
「や、さ、急ぎの用があってね」
「いいわ、そんなのどうだって、ところで父さんと何を話していたわけ?」
「いやあ、【湯あみ極楽院】って何処だか教えてもらっていただけで」
やばい、やばすぎる、いま『とうさん』つったよな、仕組まれているのか、つまりあれだ、手柄を立てたらあかん言う事だ。
「そうなの、それでそこがどう言う所だか知っているわけ?」
なんだよ、俺なんかに絡まなくたっていいだろ、もう諦めたよ【許嫁全身フルだいぶ】は、ふくざつぅ、この娘可愛いなあと気にはなっていたのだけれど。
「知らないけど、これクリアしないと先に進めないんだ」
「ほんと、何も読まないの、推察できないばか、あほ?」
いきなり長刀のいしづきで、俺の尻っぺたを振り払うようにどついてきた。いたいよ痛よ、お尻が痛い、痛いお尻はもとから……それはだめだ。
急ごう、これは試練に違いない、如何に切り抜けるかで経験値に差が出る、そうだそうに違いない。
「ご注進~~ん、ごちゅうしぃいいん」
俺は、さも重要案件を持って伝令に出て行くかのように叫びながら、走り出してその場を後にした。
とたんに、【湯あみ極楽院】の前にやって来た。
「いらっしゃい、あーらずいぶん若い子ね、で、ご用は?」
しわくちゃ白髪頭に若い子と言われても、全人類は若い子に分類されてしまうであろう婆様に例の手紙を差し出した。
「あら、やっぱりね、そうだと思ったわ」
何がそうだよ、そういうセリフって初めからそうなってんだろがシナリオ道理だろ、お見通しだお。
「おしの、いるかい、ほら湯あみ初め間へ、こちらの坊ちゃんをお通しておくれ」
何かを始める所らしいな、これがクエストなのだろう。頑張って一回でクリアして見せる。こう言うとき攻略動画が見れるといいのに。
その部屋でおしのに服を脱ぐように指示されて、ぶらぶらを隠すように腰布を巻かれるとサウナのように蒸し暑い部屋へ通された。
すると、榊の枝を湯につけて身体にたたきつけてくる、しの。
「あつ、あつつー」
これはこれから始まる儀式の前のお清めなのだろう。これしきの事、耐えて見せる。しかし熱い、拷問か。
しばらく耐えていると、体が火照り蒸し暑さも手伝って、全身から汗が噴き出してくる。
すると、しのは糠をまぶしたヘチマたわしで、体をこすっては水で洗い流してくれた。なんだ、ただのサウナじゃないか。きもちいい、さっぱりする。
いや! あの、そこは結構です、自分でできます子供じゃないんです、ちゃんと元服してるんですこう見えても。
「こちらの方はまだみたいですよ、坊ちゃま」
すっかり清められた体で、先の部屋で服を着せられた。
「準備が出来ましたらまた参りますので、少しお待ちになってください」
「あ!はい、わかりました。さっぱりして気持ちいいです。ありがとうございました。」
「いいえどういたしまして、すぐに戻りますからね、--(ふふっw)」
え! 今のはなに? 気のせいだろ、そうだ、そうに違いない。
なにやら落ち着かない吉春だが、あちこちに目を向けていらぬ心配を振り払おうとしていると、
「おまたせ、ささ、こちらへ」
部屋の奥のふすまを開けると、そこには三つ指をついた白づくめで長い髪を襟もとで束ねた女子がおる。
しのが言う、
「終わりましたら、声をかけてくださいね、元服していらっしゃるので分かりますよね、これからどうしたら良いか、では」
すーっとふすまが閉まる。
傍らには床がしいてあり、いかにも”それ”らしい雰囲気だ、どこかで観たことある、時代劇とかその辺りで。
これがクエストなのか、最終ステージなのか、俺は理解した、五感を研ぎ澄まして最強の秘儀を繰り出す時なのだ。
すると何時の間にか三つ指が何やらぶつぶつ呪文でも唱えているようだ、なに、何なの様子がおかしい、どうしたというのだ、俺の虎徹をどうすればいい。
たちまちの内に女子の全身を包む魔力の紫煙が、ゆらゆらと立ち登っててゆくのが見える。わけない。
「あんたねえ、なんて事選ぶのよ、あそこは『許嫁などはようございます』でしょ、それが正解なの」
「え!」
「どうしてこんな事になったか分かんないの? 迷惑なの、信じらんない……」
それまで着いていた三つ指を、いつの間にか右と左とを交互に握りしめながら、むっくりと面を上げた。
するとその真っ赤な額には、くっきりと青黒い怒りが浮き上がっている。
「う! おこなの? まじ……」舌がもつれる、体がだ・る・い。
あの眼だ、蔑みのような塊を投げてよこすあの娘だ。なんでこの娘が…
だがこれまでとは明らかに違う、唇を素早くそして小刻みに動かして、言霊のパケット(文字データ)を貯めている。
もはや術中にはまっているようだ、はめるのは俺だったはずなのに。
どうなるの、どうなってしまうの? おれの全身感応むふふフルだいぶ。
やがて溜まりにたまってあり得ない位特大に成った言霊のパケットは、インフラを通して俺の【デバイス・スーツ】にまで達しその機能を停止させた。オーバーロード。
ダメだ、ついに俺の虎徹はメタルダウン、急速に衰えてゆくのを感じる。
つづけて俺の目の前は18禁モザイクが架かったように乱れると、その画像の断片一つ一つが順繰りに欠け落ちて行き最後に残った欠片が消えると共に意識が遠のいた。
ツッ--------------------ッ ピッ
気が付くと俺は、元居た個室に戻されていた。
『只今ログインサーバーが非常に混雑しております、しばらくたってから再度お試しください』
こんな終わり方ってあるかよ! あんまりじゃないか……