VR戦国ファンタジー【その1】
- カテゴリ:自作小説
- 2017/11/19 00:02:42
1.招待状
「やっべー、当たっちまったぜ!」
俺は郵便受けをあさると、待ち焦がれたこの愛しい先行体験招待状ちゃんを手にして、思わず叫んでしまった。
『みよ! このフルだいぶ技術の結晶、全身感応ハイパーうるとらVRあとらくしょん』
売り文句が凄い。
最終幻想や世界的創造戦など今までのオンラインゲームは、すでにお腹いっぱいだった。
『全方向より雄叫びが降り注ぎ、血しぶきが上がり矢弾の飛び交うオープンワールドで、貴方も英雄を目指せ!』
リアルが売りらしい。
「これだよ、これ! 次世代MMOのプロトタイプVRPG、全身感応むふふフルだいぶバージョンw」
【フルだいぶ】とかすげー意味わかんねーけど、この最もらしい語感に惑わされてすぐ手を出しちゃうのが俺の取り柄かも知れない。もちろんこの全身感応むふふフルだいぶに、期待を込めている事は言うまでもない。おとこだからな。
当日、さっそく全身暇を無理やり作り出した俺は、アトラクション施設のある箕輪城へ向けて車を走らせた。アクセル全開だ。だが、タイヤは鳴かないしあり得ない、トラクションコントロールとか不思議な名前のやつがそれを許さない。
もっとも、俺様にはそんな装備は必要ない、この俺が許さない、ぶっといタイヤでぶいぶい言わせる、男は黙って手動操作がポリシーだ。ごめん、見栄はった、軽ですしそんな難しい装置なんて付いてないです、必要ないんです、地元スバルが製造している軽自動車なんです、おばちゃん仕様。
そこそこ軽快に飛ばしているけど、なんか後ろから煽られちゃうおばちゃん仕様。
「危ないなぁ、近頃の若者ときたらルールってものを知らんのかね、と青春真っただ中の俺が言っても説得力ないか、--おろっ?」
そんな俺様の横を、幅広扁平極太タイヤが路面を蹴飛ばし、ふぅぉぉぉおんとか良い音出して颯爽と抜いて行きやがる。あれは【ホテンザ・レヴォ】に違いない。その間ちょい目に映ったのは、グラサンをしてニヤケた顔のじいさん、爺さんだろあれ、ちっ! おまけにレコなんぞ載せてやがった。なんて奴だ、俺はひがんだ、ひがみまくりの曼殊沙華だ。くそ、事故ればいいのに。
今に見ていろ、俺にはこれがある! これだよこれ、最強の勇者のみに託されたゴールドアクセスカード。招待状に付いてた。まあ、いきなりひがみまくりもどうかと思うので、とりま落着きを取り戻そう。すっすうはっはでラマーズ法。
現地に着くと看板には『八神博士のハイテクワールドへようこそ、近日グランドオープン』とデカデカとある。だが残念だ看板が小さい。更に小学生並みの描画力に不満を鳴らすのも最もだろう、だがそんなこたぁ問題じゃあない。問題なのはこれから始まる冒険へいち早く飛び込めるかどうかだ。
他に先駆けて、ハイパー俺様超絶不思議世界を体験できる権利を手にしているのだから。何々家お通夜とでも書かれていそうな急ごしらえ的でチープな標識に従ってホールまでたどり着いた俺は招待状を差し出した。はあはあ。
「あ! はい、ゴールドカードをお持ちですね、では夏目吉春様、こちらへどうぞです。--(ふふっw)」
「ども、おなしゃーっす」
あれ、なんか笑ってない? え、どうしてゴールドだよ! 特別じゃないのふふなの可笑しいの? ばれないとでも思ってんの、なんか隠そうとしているけど。だって目がへの字だよ、眉じゃないよ目だよ眼。それって下から見上げてんのに、絶対見下してる系だよね、刑事パイ喫茶のテーブルまで運んで行かれる俺見てる系で。
そういえばアキバにあった最終幻想の出店で特盛脳筋ライスをたらふく食った後から、魔力増強ドリンクを大ジョッキで頼むと貰える猫キャラコースターを狂喜して手に取った時の俺を見る目。あれだ、絶対あれだ。あの目に導かれた俺は、待望なる勇者の間へたどり着いた。全身感応むふふフルだいぶ。
ドアを開けるとそこは、冴えない面のアキバでよく見かける感じのいつも何か背負わずに居られない眼鏡をかけた、なんだよそれお決まりか、決まってるのか?みたいなこいつらと同類扱いされるのは不愉快な感じのキャラが溜まっている。う! あのじじいも居やがる、ちょっち異質な臭いのキャラだがどうでもいい、奴には負けねえ。
「おいーっす!」
あれ? なんかこっち見てくる、何それ俺のスペック見んの強さとか弱点とか、メモリが付いてんのスキャン出来ちゃうの黒縁でぶオタメガネを人差し指で眉間の所持ち上げちゃってさ?
どいつもこいつもうぜーんだよ消えろすっこんでろ、ものさしや型抜きに当てはめられねえんだよ、俺様の虎徹は。
「これから二次審査が始まります、モニターにカード記された番号が表示されましたら、あちらのゲートより奥へお進みください。--(ふふっw)」
またふふかよ! てか二次審査とか聞いてねえし、ゴールドとか特別じゃあないんかよ、こういうのパスだろ普通。
「まちきれねー」
もう何でもいい、俺は絶対パスして見せる、全俺の体重をかけてやって見せる、脱げと言われればそうする、そしてはち切れんばかりのこの俺の情熱をぶつけて勝利をもぎ取る。いける、そうすればいける。絶対いける、いって見せる。
ぴか! --てか!…… それを確認して頷くと続々と消えてゆくライバルたち。ポツンと残される全俺の体重を載せた情熱は、白煙をくゆらせながら中心部まで達しやがて萎えてゆくのを感じたその時、ぱっ!「あれ?」なんかついた、一瞬、--絶対ついた。目をこする俺。ぱちくりパチクリ。
数秒後念を押すかのように、ぱっ! モニターに顔を近付けて確認する俺の目には、わずかな残像のみ。ゆする、たたく、唾を吐き掛けて、こする。
ぴーぴーぴーっ!
「やめてください! 汚い。--それよか時間切れになっちゃうでしょ」
「え! 時間切れも何も、だって、表示が、見えないんですけど」
「いったでしょ、カードに記された番号って」
俺はカードを見た、つもりだった。見直した。
「あのぉ、何も書いてないんですけど」
「だから、今なにも表示されてないでしょパネルに、そう言う事なの、ゲームなの始まっているの既に、ゲートが閉まる前に行った方がよくてよ。--(ふふっw)」
意味が分からない、番号って言っておいて書いてあるって言っておいて、ふふっw がお決まりだし、目もそうだし。
「そ、そうかありがと~」
ゲートへ向かう足、何かもつれた、必死に体制を立て直そうとする俺、間に合う、きっと間に合う。
(ぴんぽんぽんぽ~ぉおん『通路は危険ですので走らないで下さい』ぽんぽんぴんぽ~ん。--(ふふっw))
うぜ~よ、同じ声なんですけど、省エネなのかよ、小規模経営アトラクションなのかよ? 余計な含み笑いはカットしないんですか? だが間に合えば許す。
「お願い、もう少しなんだ、いいだろ走ったって、端の方だからさ、ね、ね」
つづく