「契約の龍」(120)
- カテゴリ:自作小説
- 2009/09/30 00:09:37
一年で一番遅い朝、冬至祭のイベントは、「スタンプラリー」の結果発表から始まった。
予想通り、クリスをはじめとする年少組のトラップに引っかかって、スタンプ六十九個のパーフェクトを叩きだした者はいなかった。
そして、スタンプの数こそ六十二、と少なめだが、一人だけ、クリスを含め、他のトラップにも引っかからなかった者が、一人だけいた。
フレデリック・センダックだ。
…つまり、彼は初日から参加していたにもかかわらず、きっちり俺だけを回避したうえ、トラップにもかからなかった訳だ。全く憎たらしい。
そして、別室で行われた「スタンプ係」の成績発表によれば、一番働いたのは、やはり予想通りクリスだった。
「…時間換算してほしい…」
とセシリアが悔しげにつぶやいたが、それでも追い付いたかどうだか。何しろ、――終盤は失速したものの――最大四役こなす化けっぷりだったから。
ともあれ、これで「お仕事」は終わったわけだし、のんびりできるなあ、と思っていたが、それは考えが甘かった。
「アレク。今日のうちに試着、済ませておこう」
部屋に戻る途中、クリスが異様なまでに上機嫌な声で話しかけてくる。
「し…試着?」
「そう。それによって、補正下着の調整がいるから」
「ほ…補正?下着……って、なんだ?」
「体型を矯正するために、ドレスの下に着る下着の事。ドレスと一緒に届いてなかった?」
「……届いてた、かも、しれない……けど、見てない」
「ダメだよ。お届け物は、ちゃんと確認しないと。今から確認しに行こ?」
部屋に戻るところではあったのだが、アレと対峙しないといけないとなると……とたんに気が重くなる。
気が進まない様子を見てとったクリスが、後ろに回り込んで俺の背中を押す。
「厭な事だからって、先延ばしにしないの!」
「あ、えーとセシリアは…」
振り向くとやけに上機嫌な顔でこちらに手を振るセシリアが見えた。
「あたしは、適当にその辺をうろうろしとくから。「お仕事」してて、まだ回ってない会場もあるし」
セシリアは、この七日間の「お仕事」中、ずっと定位置にいたので、客には覚えられている、と思うが…まだ午前中だし、よからぬ振る舞いをする輩もいない、とは思うが…
「…アレク。顔に大きく「心配」って出てる」
「……セシリアには、その辺の人よりも優秀な護衛が付いてる、だろ?それは解ってるけど」
「…だったら、セシリアにもついてきてもらう?」
「それは、いやだ」
「即答だね」
「ついでに言うと、ドレスを着るのも、いやだ。だけど拒否権はなさそうだし」
「んー…さすがに、病人やけが人に無理して出て来い、とまでは言わないと思うけど?今のとこ、健康でしょ?」
「…こういうときは、自分の頑健な体が恨めしいよ」
その後二日間の事は、記憶から消去したいと思う。…できる事なら。
あんな凶悪な拘束具を身に纏ってダンスできるような生き物は、敵に回したくない、とつくづく思う。
冬至祭の残りの期間は、できれば部屋でゆっくり過ごしたかったが、何やかやと連れ出された。引っ張り出されると、二回に一回は仮装舞踏会の事が持ち出されるので、非常に迷惑したが。クリスが言うには、顔見知りの所にしか行ってないせいだそうだが…ここにいる俺の顔見知りが、揃って性格が悪い、ってことか?