夢の欠片その2(血を受けし者)
- カテゴリ:小説/詩
- 2017/09/28 13:52:20
●血を受けし者
仏壇には、祖父ちゃんと、よしの姿が燻る香に揺られて微笑んでいた。
祖父ちゃんに梨、よしにも梨だが、これは正しい組み合わせである。
どちらもそれが好物であることだけは、しっかり忘れずにいるばあちゃん。
他の事は、怪しくなってきたが、それはやむを得ない。
「よし、あの頃は楽しかったねえ」
祖父ちゃんへか、愛猫へかは分からないが、どちらか片方へ語っているとは思えない。
生前に祖父を呼び捨てにするばあちゃんに、お目にかかったことはないが、
きっと二人きりの時は、そうして居たのかもしれない。
「あ~あ、俺にもばあちゃんみたいな嫁に、巡り合える時が来るのかなぁ、もう諦めてるけど」
吉春とて、思いを寄せる君は居るが、とても手の届く所にない事は自覚していた。
そんな弱気顔を、水がめに映るまん丸お月様でぬぐうと、床に就いた。
「秋ってやだなあ、なんか寂しいよ、特に今年のは」
ほうほうと、吉春の戯言を聞く梟の声に、夜は更けていった。
意識は巡り、他愛もない吉春の世界へ、一匹の子猫が顔を出した。
「みゃ~ぅ」
「なんだお前、生きてたんかよ、心配かけやがって」
「ってか、お前だいぶちっちゃいけど、ちじんだんか」
驚いた様子で、引き下がる子猫。
と思った直後、物陰から奇襲を食らわしてきた。
「すきあり!」
「いてて、なんだよお前、痛いだろ」
「ってか、すきありとか、祖父ちゃんかよ!」
「え!猫がしゃべった」
そこへ駆け込んできて、抱き上げる姫御。
「だめでしょ、よし君、そんな乱暴したら」
「これも我が家の伝統じゃから、やむなし」
この姫御の姿は、ばあちゃんのアルバムにあった、その人である事は時期に知れた。
そして、この子猫の行動とその声は、紛れもなく祖父ちゃんそのものだった。
なんか不公平な取り合わせであるが、子猫の方はそれを不満に思う風でもなく、話始めた。
「実はな、吉春」
つづく
「男子たるもの、夢を大きく持て」
「はい、はい。そうでしたね御祖様」
「ばっかもぉ~ん、話は終いまで……」
いつもの通りであった。
語るところによると、浮世と隣合わせの霧夢国。
この国は、人が人として歩み始めた時代から、
形作られし御霊の国とを結ぶ国。
この国を通らずして、懐かしき故郷と心通わすことは成らないと云う。
人は霧の中に、それぞれ道々を行く夢の旅人である。
小さな霧の一粒一粒が、雫となり心を寄せ合い、一筋の流れを生む。
何もない所では、何時までたっても霧は雫とはならない。
こうしてして生まれた流れは、夢の欠片をつなぎ合わせて、霧夢の国の広がりを創った。
「ところがじゃ!」
「昨今、かつてない危機に瀕しておる」
「別にいいじゃん、夢の話だし」
「そうは、いかの~ぉ」
バシッ!何かをたたく音に言葉が途切れた。
「いてっ、じゃない、い、いかんのじゃ……」
以前よりこの世界は、悪夢が幅を聞かせ、世界を蝕んでいた。
霧夢の国の皇女様は、これに立ち向かう志士を募った。
そして、選ばれしものには夢我珠を授け、秘めたる力を引き出す、あやかしの呪文を教えた。
悪夢を吹き払うためである。
「この珠を操るには、コツがいる」
「しか~しじゃ、最も大事なのは、血じゃ」
「えぇ~~~、やだな俺そういうの」
「え~い、武士の家系にありながら、情けない」
「親から子へと、孫へと受け継いでいるそれじゃよ」
「なぁ~んだ、そうか、ほっとしたわ」
「でっ、珠と血と、お祖父ちゃんと俺、いったい何つながりなんだい?」
「にぶいやつだな」
「ふふふっ、よく似たよし猫ですこと」
つづく