人間社会ではルールがあります。
多くは法律という名の約束で、それらは守られています。
それ以外にも、マナーや紳士協定など、守らねばならない事、破ってしまったら批判されること等、様々ありますよね。
しかし、認知症を患っている人がいる施設では、それらはありません。

例えば・・・
送迎で複数の方をお送りしている最中に、一人の人がこんな事を言います。
「ウチは一軒家で良かった。マンションには住みたくないわね。」
これをマンションに住んでいる人の前で言います。
コレはですね、マンション住まいの人にイヤな想いをさせてやろうと言う悪口を言っている事ではなく、単に自分は一軒家の良い家に住んでいるという自慢話なんです。
そんな事を言ったら人を傷付けてしまうという理性は無く、自慢をしたいという本能だけで口に出してしまうのです。
子供って良く残酷な事を言う時があるじゃないですか。
私の頭を見て「ハゲだ」
私はハゲですから全く気にはなりませんが、中にはそれを気にしている人がいるかもしれません。
だから言わない方がいい事なのですが、子供は見たまんまの事を口にします。
子供であれば、子供だから仕方が無いというお話にもなりますが、それを一見酸いも甘いも知り尽くしていると思われる年配者が言うのです。
トラブルになりますって。

介護職員の研修では、利用者に「ダメ」と言ってはいけない、とあります。
例え利用者が、他人を傷つけるような言動を取っても、「ダメです」と言えないのです。
「○○さんの一軒家も素晴らしいでしょうけど、△△さんのマンションも素敵ですよ」
仕事ですので、などと交します。
もしも仕事でなく、相手が認知症でもなんでも無かったら「テメーの家なんかしらねーよ、どうせテメーが稼いだ金で建てたわけじゃねーだろ、ぶぁーか。」
となります。

言葉のやり取りではこの程度ですが、中には手を出す人もいます。
職員や、時には同じ利用者の頭をパコンとやる。
一般社会では、その時点で傷害事件かあるいは刑事告訴で書類送検です。
しかしここではそうなりません。
職員が被害に逢った場合は、ひたすら我慢。
利用者の場合は職員が謝罪し、事故報告の書類を作成してそうならないための対策をこうじます。

以前私が遇ったケース。
前頭側頭型認知症が進み、ほぼ本能だけで生きている利用者。
リハパンとパットを当て、食事も要介助、口腔ケアも無理やり口をこじ開けスポンジブラシ使用。
私がトイレ介助を行った時であります。
車イスでトイレへ向かい、手すりにつかまらせて何とか立って頂く。
しかしすぐに座りたがるので、片手で腰を抑えてどうにか立位保持。
もう片方の手でズボンを下ろし、パットを外して交換しようとした所、私の首を思い切り掴みかかって来ました。
「ばかやろう、やめろ」と罵声を吐きながら、私の首に爪を立てます。
「あーもうやってろ」と、引っ掻かれながらパット交換完了。
「痛て～」とトイレから出て車イスを押して座席に向かうと、私の首筋からは血が流れていました。
看護師の職員が私を手当てしてくれましたが、首の傷は一か月ほど消えずに痛みが疼いておりました。

考えてみますとね、もしもそういう利用者さんにハサミなどで切りかかられて、命を落す事になっても、ウチの家族は誰も訴えられないんですよね。
それは仕事だからいいんですけど、こんな内容の仕事でも時給はコンビニのレジとそんなに変わらないんですよ。
介護職、やる人いないわけだわ・・・。