なんか変わった知り合いができた。

知り合いと言っていいのか解らないが、前に一度は会っているから
まぁ 拡大解釈すれば間違ってはいない気がする。
先日、夜の街を与太っていたナンパ野郎からラトゥールのセカンドラベルをカツアゲ✨ したので
それを手土産に 訪ねてみようと思い立った。

そいつに初めて会ったのは、少し前、月がいつも以上に存在感を放つ、明るい夜だった。

　*

街の喧騒を離れ、深い森の、朽ちかけた古城の塔で月光浴をしていたら、
後ろから、何をしている !?　とイキナリ声が降ってきた。
住人がいた驚きと、不法侵入の申し訳なさもあって、月光を浴びている、と正直に答えたら… 笑われた。

何を笑う !?

笑ったそいつは… 珍しい姿を持っていた。魔物か… それともアンデットか。
まがいモノの可能性もあるが、なんとなく真正だろうと思われた。その珍しい姿が板についている。

いや… 答えが返ってくるとは思わなかった。
驚かすつもりが驚かされて、それが可笑しかっただけだ。気に障ったら謝ろう。
ヒトは時々、予想もつかない行動を見せる。

（ ヒトではなく石だ ） と心の中で思ったが、メンドーなので否定はしなかった。
私という存在を他者に説明できるほど、私自身も理解してはいない。

そんなことを考えながら、そいつの珍しい姿を つい不躾にもガン見していたらしい。
そんな私に興味を覚えたのか、酒でも飲んでいかないか と誘ってくれた。

ちょうど飲もうと思っていた時に、私を見つけて城を出てきたらしい。
案内された無駄に広い部屋の中央テーブルの上には、既に、肴と酒が準備されていた。
肴は、鶏の白レバー･バケット添え、トマトとモッツァレッラ・バジリコのインサラータカプレーゼ、
なすの揚げ焼き白ワインマリネ。酒は日本酒、銘柄は 『綿屋』 だという。

ボーダーレスな… と、そう思った。

カーネリアンの色をしたソファを勧められ、
ロックグラスのような口の広いグラスに綿屋が注がれ目の前に差し出される。
乾杯。とグラスを上げた。

甘み、酸味、辛み、厚みのバランスが程よく、総合的に上品な酒だろう。
突出した個性に欠ける、と言う向きもあるだろうが。

そんな講釈をされても飲むのは初めて、嫌いではないが比較は出来ない。
ビールともワインともブランデーとも違うのが解るくらいだ、と言ったら、また笑われた。

なぜ そんなに笑う !?

オモシロいからさ。酒の相手がいる。言葉をかける相手がいる。
そして、自分の言葉に反応が返って来る。その多くがコチラの予想を裏切ってくる。

そういって魔物はまた笑う。

それからの話はまぁ… 雑談だ。
なぜ日本酒なんだ !? 他の酒には興味は !? このインテリアは趣味か !? 服の趣味と合っていないが…
等々 テキトーにふって話をさせて、それを酒の肴にしていたら…。

私が何者かは聞かないのか !? と問われた。

聞いて何がどうなるものでもないし、聞いたらメンドーそうだ、と正直に答えたら
ヘンなヤツだ、と また笑う。
人生でも語りたいのか !? と投げかけたら、話すほどのことがあっただろうか… と口を閉ざし遠い目をした。

記憶は時間に融けて変化する。
嬉しい記憶は、もっと嬉しい記憶に上書きされるか、嬉しい記憶のその後によって台無しにされることもある。
痛い記憶は時間が経てば、痛みが薄れ、経験値のひとつとして残るだけだ。

やっぱりヘンなヤツだな… と言いながら魔物は立ち上がり、
酒を変えようと、壁際のローボードから酒とグラスを取り出した。銘柄は 『上善如水』 だと言う。
グラスを変えて新たに差し出された酒は、まるで手応えを感じないことに驚く。

味はどうだい !?

私の驚いた顔に満足したのか、そう問う魔物の声は満足そうな気配をまとっている。
顔を上げると、魔物の姿が、ぐにゃりと歪んで見えた。

視界がかすむ。空間がたわむように次々と形を変え。
身体は力を失い、グラスでさえも保持することが難しくなり。指の間をするりと抜けて床に転がった。

薬か毒か、それ以外の何か、よくは解らないが…。
これはマズイなー、てかまだ手を付けてない肴があるのに と思いつつ人間態を解除し、
石に戻ってソファとクッションの隙間にもぐり込んだ。

… どこに… 行った !?

魔物には、私がイキナリ消えたように見えたのだろう。
混乱しているのか、それから しばらくは、何ひとつ物音がしなかった。

やがて… 私が隠れているソファに乱暴に腰を下ろしたような衝撃を感じたが、
あれだけ饒舌に、あれだけ笑っていたヤツが、ひとりになった途端、話をしなくなった。
代わりに、歌を口ずさむ。
知らない言語、ゆえに内容も解らないが、声は悪くない。

その歌を聞いているうちに眠くなる。
どうせ石のままでは動きにくい… このまま寝ちゃおう。と、さっと意識を手放した。

意識を覚ますと、朝だろうと思われた。鳥のさえずりが、暴力的に響く。
早朝か。帰るには超ラッキーな時間帯だな。
部屋には何の気配も感じられなかったが、用心のため、石のまま窓まで移動する。

ｺﾛｺﾛ ‹‹ヽ( ･ω･ )/››‹‹ヽ( ･)/›› ‹‹ヽ( ･ω･ )/›› ｺﾛｺﾛ

じゃ、ごちそうさまーーーっ と、ひと声かけて窓から脱け出すと、
朝の清浄な光が、起き抜けの身に痛かった。

古城のふもとの町で、旅行者のフリをしてカフェオレを注文し、ついでのように古城の話を聞いてみると、
かつての城主が魔物になったとか、城主の息子が実は魔物だったとか、
口伝が残っていて、いまも魔物が棲むとして土地の人間は誰も近づかないと言う。
へー怖いねーとか、テキトーに相槌を打ちながら礼を言った。
元々はヒトだった可能性もあるってことか。

そういえば、カーネリアンは 『再生』 の象徴だとミイラに奪い合いをされたこともあったなぁ。
甦ったヤツなど誰ひとり、いなかったが…。

もしかして昨夜、私は あの魔物に呼ばれたのか～ !?
私が動くカーネリアンだということを知っていたとは思えなかったが。
無意識ってヤツかなｗ それとも考え過ぎかな。
ヒトに戻ったところでイマサラ… 骨も残らず風化して終わりだろうに。

夜までひっそり眠るであろう魔物は、メンドーではあったが、それなりにオモシロいヤツだったと思う。
遥か前方、見上げるほど続く広大な森の中に、尖塔がわずかに見えるだけの古城、
ほんの少し冷気をまとった朝の風が、森の無数の葉を一斉に騒めかせ、この世界を深緑に染めた。

　*

そんなこんなで （手土産もあることだし） もう一度会いに行こう～と緑の古城に近づくと、
都合のいいことに、そいつは古城の、過日の尖塔で星を眺めていた。

何を見ている !?

ビクリと一瞬 身を震わせ、魔物はゆっくりと振り返る。
前回のお返しに 不意打ちで声を掛けてやろうーーーっ と思ったのが 大成功 （←めっちゃ嬉しいｗ
私を見て、驚きに目を見張り、妙にバツの悪そうな顔が、幼く見えて可笑しかった。



～心をもつ宝石たちの軌跡をえがく物語群～
サークル幻想断片　創作企画

　　石物語　Les Histoires des Pierres

石物語 第二期 公式サイト
http://cherspierres.blogspot.jp/





なんか書きたい！ と叫びつつ、頭から何も出て来なかった一週間。半ば力づくで、形にしてみた。
不満はあるが ブログアップできたので 個人的にはオールオッケー！
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