【花蝕外伝スピンオフ】 アクィローの物語
- カテゴリ:自作小説
- 2017/06/10 02:47:27
良くも悪くも、母は 『貴族』 だった。父母が別れた理由も それが原因だったと 今になれば解る。
士官学校入学前のボクは父について行きたいと思ったが、
ボクにすがって泣く母を見ていたら、父といっしょに行きたいとは言えなかった。
出ていく父を見つめるボクは、きっと泣きそうな顔をしていたと思う。
ボクの頭を撫で、士官学校でいろんなことを見聞きして多くの価値観と出会いなさい、と父が言ったのは
母に洗脳されそうなボクを心配してのことだろう。
事実、母の教育という名の洗脳は、強烈だった。
実験体 D-4 が、ディアーヌ皇女殿下として正式にお披露目され、士官学校の後輩になると知った時も、
「大魔王陛下の核を受け継ぐって言ったって、しょせんは実験体だろう」
それは確かに自分の口から発した言葉ではあったが、
母の思考をなぞって口にしただけだということを、心のどこかで解っていた気がする。それでも…。
「… D-4 が ………」
ドキッとして思わず足を止めた。
ボクが歩いていた通りの横に走る、建物と建物のわずかな隙間からイキナリ耳に飛び込んできた言葉は、
D-4… つまりディアーヌ皇女殿下の実験体ナンバー。
新しく仕立てたシャツを受け取りに行った先で、ディアーヌ皇女殿下のご発生を祝う式典がいよいよ明日
という話題が出たおかげで、戻る途中、苦々しい記憶をまざまざと思い出し…
すっかり過去の感傷に浸っていたボクの意識を引くには、たぶん最高の言葉だったろう。
そこには、侮蔑を込めたようなイヤな響きがあった。
「ああ … 生かしておいては ………」
「……… じゃあ … 集合場所は ……… また …」
ハッキリとは解らないものの、良くないことを企んでいるのは容易に想像できた。
その片方が こちらに向かってくる様子に、慌てて建物から離れると、
姿を見せたのは、地味だが身なりの悪くない、むしろ貴族を思わせる仕立ての良い服を着た若い男性型悪魔。
どうしたものかと思いつつ、少し離れて後をつけると、
すぐに数名の、いずれも貴族の子息であろうと思われる集団と合流した。
「準備は整って ……… そうだ」
「……… 明日だな … 行くか」
これから悪事を働こうとしているはずなのに、周囲を警戒すらしない集団に奇妙な懐かしさを覚える。
誰かが自分たちを阻むことさえ想像もしていないような、傲慢な振る舞い。
まるで母や多くの貴族、貴族の地位をひけらかす同級生たち。そして、かつての自分。
冷静に遠くから眺めると、目を背けたくなるようなバカさ加減だ。
聞こえる話は相変わらず断片的で、計画の内容は解らないが、皇女殿下を襲撃するのは間違いないようだ。
刑務庁に通報しようか。そう思った時、中心にいるリーダー的な若い貴族に気づいた。
… あの顔は知っている …。母といちばん仲の良い侯爵夫人の子息。以前、紹介されたことがある。
いくつか年下で、士官学校でも何度か見かけていた。
親子ともども母と同じように、現大魔王陛下が作り上げた体制に不満を持っている。
もっと正確に言えば、高貴な自分たちがあり得るはずのない不遇な目にあっていると疑わず、
被害者意識丸出しで嘆いているだけだ。
… もしや母もこれに一枚かんでいるのか。真っ先に頭に浮かんだのは、それだった。
急いで刑務庁に…。一瞬そうも考えたが、出来れば、それは避けたかった。
母が何も知らないとしても、あの親子と母は近し過ぎる。母に 何らかの累が及ばないとも限らない。
どうする !? どうすればヤメさせられる !?
迷いながらも後をつけると、途中で車に乗り込み、さらにどこかへ向かう。
翼を広げ、ミラーに映らない上空から さらに追っていくと、
王都から少しだけ外れ、貴族の別邸らしい派手な (趣味の悪い) 屋敷の前でヤツらは車を下りた。
警備もいないのだろう。上空から入り込むのは、ひどく簡単だった。
庭園の片隅にある小屋前にヤツらは集っている。
「… 武器を …… そう連絡を … 」
黒幕がいるのか実行部隊がどれほどいるのかは解らないが、少なくとも、あの集団のなかに連絡係がいるらしい。
連絡が付かなければ、計画に狂いが生じるはずだ…。
狂いが生じれば、警戒をして中止も考えられる。希望的観測ではあったが…。
そうこうしているうちに (なぜかは解らないが) ヤツらの中のひとりが火の魔力を使い始めた。
あの中にも計画に反対しているヤツがいるのか! と思ったが。
計画を前に興奮しているのか… 見せびらかして はしゃいでいるだけのようだった。
これが貴族か…。
ボクはコイツらと同類なのか…。
そう思うと身体から力が抜けていくようだった。
そう思うと、言いようもない怒りが、次から次へと身体の中に溢れていくようだった。
「大魔王陛下の意向に逆らうのが、貴族かっ !!」
気づくと、今日受け取ったばかりの新品シャツを破き、覆面代わりに自分の顔を隠し、叫んでいた。
ギョッとして こちらを振り向く集団、その中央にいる火の魔力のバカに向かって
「オマエの火では何も焼けないさ」
挑発すると、顔を真っ赤にし、ヤツは炎の威力をさらに強めた。
ありがとうよ、それを待っていた! と心の中でせせら笑いながら、風の魔力を使ってヤツの火をより大きく燃え上がらせ
炎を後方へ、広範囲へと広げてやった。
周囲のバカたちが火に包まれ、悲鳴を上げて転げまわる。
その隙に翼を広げ、上空へと飛び立った。
こちらを気にしているヤツは、誰ひとりいなかった。
… その夜、母から電話が入った。
相当取り乱しているらしく、いつも以上にヒステリックで 支離滅裂。
何を言っているのか、ほとんど 解らなかったが、
侯爵夫人の子息がどうとか言っているところを見ると、今日の話だろう。
母の声を聞き流しながら、この母は永久に変わらないのだろうと、脈略もなく思った。
貴族の地位にすがるしかない母の家は、母の代で崩れるだろう。
顔を合わせれば、煩わしいことばかり。いっそ消えてくれたら、と何度も思った。
それでも母を嫌いになれないのは、母との縁をサッパリと切ってしまえなかったのは… なぜなのか。
母の顔をみたくなくて進んだ専科も、まもなく終わる。
卒業したら… 母の家を出よう。もうこれ以上、貴族なんかではいたくない。
翌日、実行されないだろう、と思いつつも落ち着かず、
神経を尖らせて式典会場の近くをウロウロと歩いてみたが、さすがに警戒はどこも厳しかった。
これなら心配ないだろう、寮に戻るか、遊びに行こうか、と顔を上げた時。…あれは。
ヴェルニエ伯爵家のソレイユ、とか言ったか !?
友達と連れだって、楽しそうに笑う姿に、あの時の面影は無かった。
あの時のアイツは、もっと静かな、余裕の笑みをうかべ、
ディアーヌ皇女殿下に剣を向けたボクのシャツを一枚、ミゴトに切り刻んでくれた。
そして昨日、ボクは自分の意思で、ボクのシャツを一枚台無しにした。
そのたった二枚のシャツが、ボクの人生を変えた、とも言える。
そう思うと、妙に可笑しくて、笑いだしそうになるのを堪えるのが、タイヘンだった。
シャツで人生が…。それは安い。安すぎるな。
あの時、ボクはオマエに負けて良かった。でも、あの悔しさも忘れられないから、礼は言わない。
心の中で語り掛け、ボクは、クソ生意気な後輩に背を向けた。
~ Fin ~
後書きは、ひとつ前のブログに。
アクィローの進路… どんな方向に向かうんでしょうね~ (*≧m≦*) ぷぷっ
ハッキリさせるの、私は避けたんです。
これで2998文字でしたから、行数も無かったし~~~w
勧誘しますか Σ( ̄ロ ̄lll) それは、どんな方向で?
そそそ、めちゃめちゃ高くつきましたね、シャツが (((o≧▽≦)ノ彡
心の中でこっそり… であっても、ゼッタイ言いたくないことってあるじゃないですか~w
きっとそんな感じですよ、ズタボロにされたんだし。
年月を追うごとにオトナは頑固になる可能性が高いけど、コドモは成長するし。
そのズレは、年々広がるのも珍しくないのかも。
それでも完全に嫌う! ってのは、また別物なんでしょうねw
最後はちょっと… ガンバレ~と言ってもらえるキャラにしたかったと思ったので
良き悪魔生を~というセリフはありがたいです~w
褒め過ぎです (*ノωノ) 照れます、穴があったらもぐりますw
応えたいと思う気持ちと、期待が重くて逃げたい気持ちは最初からあって、
それに後から、自分が気づいた新しい見方が加わって、
三つ巴の葛藤って感じでしょうかね…。
なんと!!! 最初っからコイツには電撃を使うまでもない… と。
(*≧m≦*) ぷぷっ 先輩、かたなしっすねwww
> 大人になりましたねぇ (((uдu*)ゥンゥン
これwww、人間でいうところの高校2年相当のソレイユが、
大学4年相当の先輩に向かっても平然と言いそうなセリフ (((o≧▽≦)ノ彡 ナ~イスw
アナタがアクィローの話を書くまで、実は私、
ネコさん命名のアクィローと、沙羅さん外伝の悪役が同一人物だという意識…
ゼンゼン無かったんですよー!!!
アナタの士官学校スペシャルは、ものすごい衝撃でしたwww
思わぬ愛されキャラにしたのはアナタです (〃▽〃)
ラズを悪役に ( ̄~ ̄lll) あれは善にも悪にも縁がない小市民ですがw
それ、もはや独立した掌編ですwww
「記憶をえぐる…」 これ、もうそれだけで思い出したくもない嫌な記憶だって解る!
「少年の季節への告別式」 成長を言い表すのにこんな表現が Σ( ̄ロ ̄lll)
マスターは、こういうの書かせると、ホント上手よね (*´-ω-`)・・・
このセリフ、私もお気に入りなんです (〃▽〃)
そこをピックアップしてくれるアナタの目はサイコーですw
朝から、こんなメンドーな長文を読んでくれてありがとう~~~ (●ゝω・)ノ
> もっと激しく切り裂かれたプライドは
> きちんと修復して、昇華して、強くなっているね。
ここ! そういうふうに読んでもらえて、めちゃめちゃ嬉しいです。
ARCHMASTERライブの前夜祭のつもりで書いたので、公開を急ぎましたが、
このブログに、大和さんのコーデを貼りたかったなぁ。
あそこで命名したアナタの功績は大きいと思われまするwww
でも、ホントよくもこんなに育ちましたよねーw
複雑というか… 貴族の最も良い時期を知らないコドモたちは、大なり小なり
こんなもんじゃないかなぁ… と。
アクィローみたいにちゃんと気づくか、特権意識から抜け出すかは個人差?
臨機応変が効きそうな子だから、勧誘してみようかな?
>でも、あの悔しさも忘れられないから、礼は言わない。
オレはここが好きだな
めっちゃ大人になってますねぇ。あ。なみだが(´;ω;`)ウッ…w
ちっさい頃は親の言うことが正義ですもんねぇ。
大きくなって自分で色々と考えられるようになると「おかしい!」って気づくものですよね。
それでも嫌えない。って思ってるアクィローは実は優しいのでしょうね。
成長したアクィローにはよき悪魔生を送ってほしいですね~(●´ω`●)
なんかすごく大人になってる。
貴族にしがみ付いてた母上に育てられたアクィローさんも、やっぱり母上に応えられたらという想いもあったと思う
応じられるかどうかは別にして、希望を託していたのだろうから。
新たな一歩を踏み出してください。
和。comさん、やっぱりお話上手です。
貴族の子弟の愚かさ加減の表現もいいですね。
>建物と建物のわずかな隙間からイキナリ耳に飛び込んできた
この表現とか好きです。
2枚のシャツで人生の転機を表す所とか。。やっぱり巧みな物書きさんですね^^
いや~~名もなきモブだった先輩が、大人になりましたねぇ(((uдu*)ゥンゥン
ソレイユから見た話の裏と後日譚、違った方面から見たら、これはこれで面白い!
う~~ん、上級貴族も色々とあるんですなぁ@@
ソレイユが先輩に対して余裕の笑みを浮かべてたのは、剣筋を見極めていて
これなら勝てると思ってたからかと……( ´艸`)ムププ
ディア様絡みで内心かなり怒ってる時だと、雷撃がプラスされますw
あの時は雷の魔法を出しませんでしたからね~w
普段、友達と居る時は、普通の女の子ですよ♪
北風だから風の魔力なんだね
貴族の身分を捨てて母の元を離れようとしたらお母さんが自殺騒ぎでも起こしそう
ちょい役だったのにいつのまにか成長したアクィロー
思わぬ愛されキャラになってくれて嬉しいね❤︎
過去の記憶をえぐる自らを嘲笑い、いわれのない復讐を誓って殺意を抱く!!
これは少年の季節への告別式とも言える殺しの物語。
天から堕とされた最初のサタンからどれほど時間が経ったものか、すでにかつてのサタンとともに天に反旗を翻した大悪魔たちは眠りにつき、不遜で粗末な写しでしかない虚栄の悪魔が貴族と名乗って跋扈する41代御世においては、時代が次の主人公を迎えたがっていた。
時流が少年を脱ぎ捨て、激しい自尊心に燃える悪魔の美青年に生まれ変わらせたというべきか
面白かった
自嘲と洒脱さを感じる好いセリフですなぁ。
こういうの大好きだ。
人生の転機って、意外とこういうものなのかもしれないなぁ。
かつて苛まれていた自分。
それが母親やその周りの貴族たちの価値観を
知らず知らずのうちに刷り込まれ 生まれたものなのだと
ソレイユに負けて気づいたのでしょう。
>ボクはコイツらと同類なのか…。
貴族であることが罪なのではない
貴族という地位にすがりつき 他を見下すことでしか
己の立ち位置を確保できない連中に愛想をつかしたんだと思う。
>あの時、ボクはオマエに負けて良かった。
>でも、あの悔しさも忘れられないから、礼は言わない。
>心の中で 語り掛け、ボクは、クソ生意気な下級生に背を向けた。
このラストは救われる。
ソレイユに切り裂かれたシャツよりも
もっと激しく切り裂かれたプライドは
きちんと修復して、昇華して、強くなっているね。
シャツ2枚で変わる生き方もあるんだよw
和.comさん、アクィローを生き生きと描いてくれてありがとう!!!
お名前つけさせていただいたので親のような気分で
よく育った(´・ω・)(・ω・`)ネーと感慨深いです^^
家庭の事情も複雑だったのですねー(ღ-ˇ_ˇ-)ウーン