小さな酒場のドアを開けた。
まだ時間が早いせいもあって、店には客はおろか、店主さえも来ていない。
いるのは、店で働いている女ひとりだけ。

こんばんは。
いらっしゃい。もう三日も連続ね。今日は何にする !?
苦い酒がいい。何かあるか !?
そうね…。

出されたのは、容赦のないほど苦みが効いたビール。国際苦味基準の最高峰なのだという。

… 苦い。遠慮なく顔をしかめると、女は小さく笑った。
顔立ちはどちらかというと地味だが、濃い目の化粧が、女をそれなりに華やかに見せている。
かすかにでも笑うと、常の顔よりも ずいぶんと若く見えた。

女は、男と別れたがっていた。愛はもう冷めていた。恋人でも愛人でもなく、ただの 『人』 に戻りたい、のだと。
そう言いながらも、女は、別れを切り出せないでいた。
一人の 『人』 になりたい望みと、一人で始める新しい暮らしへの期待。その一方で、一人になってしまうことへの怖れ。
女は、そのはざまで揺れていた。

男は、妻と別れたがっていた。彼女ひとりに夢中になりたがっていた。
だが、その一方で、社会的に体裁のいい妻を そのまま妻に据え、離婚という不名誉を負うこともなく、
愛した女と恋人のまま、甘い愛を語りあいたい、とも思っていた。
男もまた、恋情と体裁の間で揺れている。

女は、己れの内に抱える怖れによって、男を抱きしめるふりをして すがりつき、
男は、隠し事という甘い蜜に酔いしれ、身に宿す少々の罪悪感を恋情の餌にして、女を抱きしめる。

この二人の成り行きと結末が、いま、見たいものだった。

同じような関わりは、幾度も、何年も、見てきた。
が、同じようであっても、それぞれに抱える事情は異なり、終わり方にもバリエーションがある。

こういう場合、現状維持を望む側よりも、現状打破を望む側を見ているほうがオモシロい。
が、打破を望む側が主導権を握っているとは、必ずしも言えないトコロが、心の動きの妙、とも言えた。

怖れという枷は、それほどに身を縛る。
無為に時をやり過ごし、後から、やっぱりあの時に… と振り返るほうが、何倍も簡単だ。

妻にはなりたくないのか !? と問うと、まずは 『人』 から始めたいのだと女は答えた。
それなのに 踏み出せない自分を恥じる。どう思うか、と女が問いかけてくる。

恥じる自分を救ってやれるのは、自分しかいないだろう。
…。
まずは、無理をしてでも新しい服を買うといい。その服に合わせて髪を整えてみるのもいい。

そう答えた。それは、委縮し、うつむいた心を起こして背筋を伸ばしたい時、
そうするのがいいと言った、最後の持ち主の受け売りだった。

苦いビールに悪酔いしたのか。翌日は酒など見たくない気分で、ほぼ一日ベッドに横たわり、
最後の持ち主に、心のなかで、あの女はどうすると思う !? と語りかけていた。
相変わらず… 他人の恋愛沙汰を、演劇でも見るように鑑賞する。コルナリーヌ、悪い趣味だよ。
最後の持ち主の、苦笑を含んだ声が、耳に響いた気がした。

 一日置いて、少し早めの時間に酒場のドアを開けると、珍しく初老の店主がカウンターでグラスを磨いていた。

こんばんは。
あんたか。彼女はヤメたよ。昼の街に引っ越すって、昨日のうちに出て行った。
（ しまった！ エンディングを見逃したか ）

不意を突かれ… ベッドに横たわっている場合じゃなかった… と後悔をしかけたところで、
続きを店主が語ってくれる。女は、何も言わず、男の前から消えたらしい。

昨夜は、男がしつこくてな、散々だった。
それは見たかった。残念だな。では… 彼女のために乾杯といこう。
何にする !?
マスターにも一杯だけ おごらせてもらおう。
… 高くつくぜ。
それも一興。私にも同じものを。
上品なグラスなど無いからな。これで勘弁してくれ。

と言って、店主はふたつのロックグラスに琥珀色の酒を注ぎ、片方を差し出してきた。
こんな酒場に何故 !? と首をかしげたくなるほど高級な、フルーティーの香りの強いブランデーだった。

乾杯。


～心をもつ宝石たちの軌跡をえがく物語群～
サークル幻想断片　創作企画

　　石物語　Les Histoires des Pierres

石物語 第二期 公式サイト
http://cherspierres.blogspot.jp/


神の記憶と想念のカケラから生まれた宝石･カーネリアン （蛇の紅玉髄） のコルナリーヌ。

紙飛行機にお茶を出すという、ミゴトな天然ぶりを発揮しつつ
その実、他人の恋愛沙汰を本を読むように、演劇でも見るように鑑賞する、悪趣味な石ｗ

高級娼婦と揶揄される持ち主と長いコトいっしょにいれば、
そんなこんなをオモシロがる… くらいのほうが、まあ、成り行きとしては自然だろう。

が、いくらなんでも、こんなコトばかりでは （私が） もたない…。なのでトボけた一面 のほうを、先に書いたｗ

石という設定は、想像したよりも自由だった。
最初は生き物ですら無いことに、どうしようか。。。と思ったが。
なんでもアリで いいんじゃね (￣m￣*) と思ったら、肩の力が抜けたというか タガが外れたというか。

まあ、石にだって、二面も三面もあるってことで。


 (*ﾉωﾉ)

今日中にシゴトをスカッと完了させて土日を休み、さらに月曜もシゴトを午前中で切り上げ
夜は友人と飲み会❤ … の予定だったが、終わらんかった (っω｀－。) … 明日もシゴトが決定した。

いまやっているシゴトは けっこうオモシロい❤ ので、
中途ハンパで妥協してなるものかっ！ と無駄に食い下がる… 悪い癖がでたｗｗｗ

そんなタイミングで、こんなブログをアップしているのは、半ばヤケです。気分転換、気分転換 (((o≧▽≦)ノ彡

みなさまのブログ読みとご挨拶は… 日曜にしたいと思ってますが。
もしかしてズレたら… すみません (｡- 人 -｡)
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