Nicotto Town



家内騒乱のビーフシチュー


家人がビーフシチューを作りたいと言い出した或る日の朝。
コイツは食いたいのではない。大量調理遊びに快感を覚える変態である。
牛の薄切りでも買ってきてビーフストロガノフで構わねえだろ、と言ったら。

和牛のスネを800gほど買ってこいと言いやがった。何回食わせる気だ。
スネが柔らかくなる過程を楽しみたいだけだろテメエ。ザケンナコンニャロ。
でも帰宅時にスーパーの対面コーナーを覗く私に世間は落涙するであろう。

スネの塊は下拵えや下茹でが面倒、和牛の肩とバラの切り分けたのを発見。
これでいいや。400gも買えば十分である。けっこうなお値段である。
持ち帰るとすぐ作ろうとする。やめい痴れ者。数日寝かせろ。今宵は茶漬で十分。

昨日の朝から始めやがった。コイツは大鍋が弱火でコトコトいうのが好きなのだ。
テレビに引っかかっている隙に鍋を覗く。おい、ツユが少ないぞ。水を足す。
その後文句を言われた。薄くなっちゃうじゃないだと? ルーで加減しろ。

私はサラリ、家人はドロリが好きである。ルーを突っ込もうとするので止める。
オマエは今夜食う気か。一晩は寝かせて様子を見ろバカタレ。塩も足りぬぞ。
ベイリーフのせいだといいやがった。何だその論理。葉っぱはCO2しか吸わん。

夕刻になる。全然肉が柔らかくない、見立てが悪い、スネが良かったと文句。
だから一晩待てと言ってるだろ。それよりルーはあるんだろうな。え、無い?
小麦粉炒めて焦がす労力はお断りである。また買いに行く羽目になる。

今朝も起床と同時に鍋に火を入れてやがる。恨みでもあるのかオマエは。
見た感じがまだ堅そうだとのたまう。コイツは味見がなぜか嫌いなのである。
勘で作り上げた料理が意外にも旨かったという自己満足の中毒者である。

家人が時代小説に引っかかってる隙にルーを一箱投入する。宜しそうだ。
しばらく後に覗き込み、やはり水っぽいもう一箱買ってこいと騒ぐ。
キサマなー! まだ夕飯まで半日以上ある、煮てるうちにトロミつくだろ!

夕飯である。珍しく平皿にとりフォークとナイフで食うことにした。
肉はバッチリ柔らかくなっている。ホラ見ろ……? あれ? おい。
オマエ肉に塩コショウしたか? 旨いが今一つだぞと文句を言う。

コクが無いのはバターを使わなかったためだと抗弁しやがった。
それ以前の問題だ、肉焼く前に塩胡椒しないってのは軽犯罪だと怒る。
だからルーを濃くしろと言ったのだと再反論……終わりなき戦いの夕餉。









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