Nicotto Town


たすくすくすのお部屋


無題

2016年10月16日。


その日は、とても空が青かった。
秋だと言うのに少し暑く,いい天気。

おばあちゃんの病室に行くと、
母の姿は無く、入れ違いになったようだった。

「おばあちゃん、来たよ〜」
私がそう言うと、おばあちゃんが目をあけて迎えてくれる。

「ほら見て。昨日、見せに来るって約束したでしょ。
カット行って来たんだけど、まだ綺麗にストレート残ってるでしょ?
ああでも、しんどいか。おばあちゃん、目瞑ってていいよ。
寝ちゃってもいいから楽にして」
そう言うとおばあちゃんは、目を瞑る。


何時もの様にベットの横に座り、おばあちゃんの手を握り話す。
ヒンヤリと冷たいおばあちゃんの手、
私の体温が伝わっていく。

そうだね、今日は何を話そうか?
外の空気がスゴく良いこと、
まるで夏の様な日差しが差している事、
近所の花がキレイに咲いている事、
何気ない日常。
たわいもない会話。

「そうそう、今日もローション塗って
お肌ツヤツヤにしとこうね。」

昨日に続き、ラベンダー入りローションを塗ってあげる。
気持ち良いのか、おばあちゃんの表情が少し変わる。

「ついでにね、穏やかな気持ちになるオイルと
よく寝れるオイルも持って来た。
これで今晩、ユックリ寝れたらいいね」

そう言って、おばあちゃんの肩口に少し塗ってあげる。

そしてまた座って手を握り、話しをする。
窓から見える空が青い。今日も良い天気。

するとおばあちゃんが、ンガッってイビキっぽい呼吸をして 、
ちょと口を閉じかけた。

「ダメだよおばあちゃん、口閉じたら息しにくくなっちゃうよ?
ほら、お口開けて。
吸って〜、吐いて〜、吸って〜、吐いて〜」

そうしたらおばあちゃん、口を開けて
私が言う様に深呼吸。

「そうそう、その調子。」

穏やかな空気。何も変わらない。

また口を閉じようとするから、声をかける。

私の声でおばあちゃんが口を開け、また深呼吸をする。

そんな事が二、三回繰り返され、何回めだろう
おばあちゃんが口を閉じた。

何も変わらない。
だけど、おばあちゃんが口を開けてくれない。
一瞬の迷い。
まさか、でも…

こんなつまらない事で呼んだら怒られるかもしれない。
でも、そうじゃなかったら?

すぐに廊下の看護師さんを呼び止める。

病室に入って来て様子を見た看護師さんがいう。
「ご家族に電話して下さい」

一瞬訳が分からなかった。
今まで私の声に応えてくれていたのに?
今も何も変わらないのに?

慌てて、携帯が見つからない。
カバンの中を漁りまくって母に連絡する。
「すぐに来て!!」

母が来るまで1時間ちかく。
私はただ泣くしか出来なかった。

「おばあちゃん!おばあちゃん!!」
何度呼んだか分からない。

もうすぐお母さんが来る。
でも、待っててとは言えない。
しんどいのが分かるから。

行かないでと 、置いて行かないでと言いたい。
それでもおばあちゃんのしんどさを思うと
言葉に出来ない。

複雑な思い。でも本音を言うなら
やっぱりどこにも行かないで。

お家に帰ろうって言ったじゃない。
その為に私も母も迎える準備してるんだから。

何も変わっていないじゃない。
握った手だって、こんなにあたたかいじゃない。

母が来て、主治医が呼ばれる。
そして、死亡確認。

こんなにもお肌ツヤツヤで、穏やかな顔をして
さっきまでそこで寝ていたのに…。

いるけど、いない。存在しない。

窓の外、遠くの空には
虹が下の方だけ姿を見せる。
ああ、いつの間に雨が降っていたんだろう。
それでも目に見えるこの空は青い。

病院を出る時に、お世話になった介護士さんが見送りに来てくれた。
「いつも私達に"ありがとう"って言ってくれて、
励みになりました。
こう言ってはなんですが、
小さくて、かわいくて、
この階の介護士のアイドルでした」
すごいね、おばあちゃん。最後まで感謝を伝えてたんだね。
そんなおばあちゃんが、孫として誇らしかった。

それからの3日は、無我夢中。
ひたすら泣きながら、家族だけで葬儀を済ませ
今に至る。

最後に覚えているのは、
今にも起きて来そうなおばあちゃん。
頰に触れるとヒンヤリと冷たい。
でも、それ以外は何も変わらない。

お化粧して下さった係の方も
「綺麗なお肌をされていたので、最小限に致しました」
って言ってたっけ。
ホント凄いよね。


職場から貰えた休みは一週間。

何をする気にもなれなかった。
葬儀までの数日で涙も出尽くしたのか、
何も感じない。ただ時間だけが過ぎる日々。

嘆き悲しむばかりじゃいけない。
だけど、日常にまだ戻れない。

腑抜けた抜け殻の様な自分。
だけど、それを変えたのは
震度3の地震。

携帯が鳴り、家がユラリとしなった。
瞬間、階段へと走り二階の母に声をかける。

何もなかった。胸を撫で下ろす。

だけど、思った。
「明日があるとは限らない。」

もしも今、
人生の幕を下ろさなければならなかったら
私は納得出来るだろうか?
後悔する事は無いだろうか?

もちろん、自分の人生に納得出来る人は少ないと思う。
だけど、腑抜けたままの自分でいいのだろうか?

何も考えられない、何も感じない。
それでいいのか?自問自答。

もちろん、今までの自分には戻れない。
だけど、前を向く事は不可能では無い。

『悲しみから抜け出す事は、
愛する人を忘れる事ではなくて、
前を向く事』

と、何かで聞いたことがある。

どれくらいの時間が必要か
それは人それぞれ。

だけど、時には後戻りしても
諦めず視線を前へ
そう、ありたいと思う。


追伸・
今まで気にかけて下さった皆さん
本当にありがとうございます。
心からの感謝と共に・・・

アバター
2016/11/07 17:08
安らかな最期そのままにゆっくりと旅立たれたのですね
いつまでも同じような時間が流れないとわかっていても
哀しみは尽きませんね

どうぞご自身とお母様のケアを。
お二人が楽しく笑って過ごしていくことを
おばあ様は望んでいらっしゃると思いますから・・・
心よりお悔やみ申し上げます m(__)m
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2016/10/25 23:01
お婆様最後の時まで幸せだったんですね、羨ましいです。
私もそんな一生を送ってみたい。

21日に後悔しない様になんて書いてごめんなさい。
そう書きながら、後悔出来るくらい大切な物があるの羨ましいなって思っていました。
励まさなくてはと思いながら、毎回たすくすくすさんの強さと優しさに逆に励まされています。

一緒にお婆様みたいに納得出来る人生送りましょうね!
いつか死んで愛する人にまた会う時に
こんなに楽しい人生だったんだよ~って笑って沢山話せるように^^
アバター
2016/10/24 20:21
こんばんは、たすくすくすさん。

想いは深ければ深いほど、失くした時の悲しみもそれはとても深く。
でもそれは、おばあさまの存在がいかに大きく沢山の愛に包まれていたかを現す感情の発露なのですね。

慰めにはならないかもしれませんが、
おばあさまと最期に会話出来て、貴女の優しさを胸に旅立ったおばあさま。
幸せな人生を送る事が出来たと心安らかだったのではと思います。

心からお悔やみ申し上げます。






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