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ごま塩ニシン


脳活日誌580号

   治安体制と文芸。
 今月の読書会のテキストは佐多稲子の『灰色の午後』である。この作品は昭和34年6月から35年2月にかけて書かれたものであるが、扱っている時代は昭和12年頃の作者の生活状況である。主人公の川辺折江と夫である惣吉との愛の葛藤を描いているのだが、夫婦ともに治安維持法で逮捕拘束され、夫の惣吉は執行猶予3年の保釈中の身であった。妻の折江も公判中であった。

 そもそも治安維持法という法律は1925年の普通選挙法(女性の選挙権は戦後になってからである。普通とは名ばかりの不平等な法律であった。)とセットで制定された法律で政府に反対する思想家や言論および行動を規制するものであった。要するに政府の政策に反対してビラを配布したり、集団で謀議したりすると検挙されるという思想弾圧の悪法であった。これは昭和6年の満州事変から日中戦争が本格化する盧溝橋事件(昭和12年7月7日)にかけて思想弾圧が強化されていった過程で学者、文化人、芸術家が一斉に検挙された。翌年には国家総動員法、1940年10月には大政翼賛会創立、1941年12月8日真珠湾攻撃、日本は米英に宣戦布告して、不毛の太平洋戦争へと突入していった。

 政府が犯罪の予防拘束とかテロの共同謀議をしただけで拘束できる法案を考え出したら、思想信条の自由という立場から考えれば、赤信号である。間違った政策を推進すれば、必ず国民の反発を受けるが、政府としては反対の芽を運動が広がらないうちに刈り取りたいという治安視点を必ず持つ。北朝鮮が核攻撃をしてくる、中国が尖閣奪取に攻めてくるという不安心を掻き立てる。事実、北朝鮮や中国の外交は稚拙であるが、アジア平和の策を考えるのが外交ではないかと憂う。




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