Nicotto Town



自作小説倶楽部10月投稿②

『ジャック・オー・ランタン殺人事件』②

鴻森
飛子(47歳)瓜塚楠男の姉
まさかこんなことになるなんて、全部悪いのは真奈子です。ご存じでしょう。別れた妻よ。こんなことなら身元引受人も断るんだった。夫が反対したんです。薄情な人だとは思うけど罪を犯したのか弟だから反論のしようもありません。でも妻は違うでしょう。お金を返せって責められるから離婚は仕方なかったかもしれません。でも離婚が成立してすぐ男と付き合うようになったようです。病気の姪の世話もちゃんとしなかった。死んだ姪のこと? いいえ、ご存知でしょう。交通事故よ。自分の不注意なのに、すべて悪いのは楠男だって葬式の時にわめいてました。そもそも横領事件だって真奈子が楠男の稼ぎが悪いって責め続けたせいです。あの我慢強い楠男が私に不満をもらしたんだから。 
あの晩? 私もK町商店街に居ました。楠男がそこに真奈子がいるらしいって探しに行ったのを追いかけたんです。でも大失敗。楠男は見つからないし、パレードでまともに歩くことも出来ません。その上、財布を落としてしまって後で夫に叱られました。財布? もちろんみつかりません。そういうことは警察の記録にあると思いますが 。
  

◆横領事件発覚当時、瓜塚楠男の娘は難病の疑いがあり、治療費を捻出するため。ギャンブルに手を出し、会社の金を横領したと推測された。
逮捕後に妻:真奈子は瓜塚と離婚、さらに一年後に引っ越し先で娘は交通事故により死亡した。真奈子はすべての不幸の元凶は瓜塚であると周囲にもらし、生活の困窮から失踪した。 

 
「トリック・オア・トリート、トリック・オア・トリート。最近の提灯はよくできてるなあ」 
「証拠品で遊ばないでください」
若い刑事はあきれて相方を見た。 
「まあまあ、ところで6年前の横領事件のことを捜査担当者から聞けた? 」
かぼちゃをかぶったままの刑事が言った。事件をあざ笑う悪霊のように見える。 
「はい。やっぱり綿貫多貨尾はクロですね。しかし瓜塚が〈自分一人でやりました〉、〈お金はすべてギャンブルでスッた〉と言い張ったのとS社が早く事件を収束させたかったようで綿貫まで調べられなかったそうです。どうして瓜塚は自分だけ罪を被るようなことしたんですかね」
「瓜塚と綿貫は共犯、横領した金は発覚していた以上あるはずさ。瓜塚が懲役してる間に綿貫が金をストックしておく。いや、瓜塚の娘が病気ならその治療費にあてる。懲役くらっても瓜塚には金が必要だった」 
「しかし、娘は交通事故で死ぬし奥さんは離婚して今行方不明ですよ」
「二人とも社会的制裁を舐めてたんだ。後悔しても堀の仲じゃ遅かった」 
「その上綿貫は裏切った? そして真相をばらすと迫った瓜塚を綿貫が殺した? 」
「殺意はあったかもしれないけど自分でやる度胸はないよ。未必の故意。代わりに元妻、雨月真奈子の居場所を教えた。かもしれない。いずれにせよ第一容疑者が元妻の雨月真奈子だね」 
「彼女はどこにいたんですか? 」
大きな頭をゆらゆら揺らしながらジャック・オー・ランタン刑事は証拠品の間を動き回り財布を手に取った。 
「この財布の落ちてたところさ」
「駅前の通りじゃ特定できないですよ」 
「店の前じゃないさ。パレードがあった通りにいつまでも財布が落ちてるわけないだろう。本当は店の横か裏口さ。鑑識に調べてもらおう。瓜塚の姉は真奈子のことを悪く言うけど、別の見方をすれば亭主に裏切られ、子供を失った気の毒な女性さ。同情する人も多いだろう。その一人が猫田又造。彼女を自分の店で雇って何かと面倒を見ていた猫田は彼女が元夫を殺したと知ってもかばった。凶器は、猫田の親方の形見かもしれないな」
「瓜塚も裏切ろうと思ったわけじゃないだろうに、なんだか哀れですね」 
「ジャック・オー・ランタンの魂は彷徨い続けるものさ。あれ? 」
話し終わって頭を取ろうとして黒衣の刑事は身をよじった。 
「ぬ、抜けない。伊藤君、スマン。これ取るの手伝ってくれないか? 痛ッ?! 」
「壊さないでください! また始末書ですよ」 

アバター
2015/11/05 04:17
『ジャック・オー・ランタン殺人事件』』180アクセス
 スコアが100くらいのびたのでは……
 すごいですね
アバター
2015/11/03 22:02
最後のジャック・オー・ランタンのくだりで唸りました^^
アバター
2015/11/03 14:51
哀しきカボチャ男の死……
最後の刑事さんたちの会話シーンの終わり方が
まるでショートショートのようで奇麗にまとまっているなぁと思いました。
ベンクーさんと同様、長編ミステリでも読んでみたいです^^
アバター
2015/11/01 02:22
最後の刑事たちのやり取りが解説と和やかさの2つの役目を果たしているのが印象に残りました。
また、容疑者の設定と状況が詳細なので、時間に余裕があったらもっと容疑者たちの描写を細かくできて本格ミステリーものに出来ると思いました。
短編で終わらせるには勿体ないと思ったので、これに人物の心理描写を加えて中長編ものにして投稿しては?・・・巻末の「ジャック・~~」が決め台詞としてとてもカッコイイので!



月別アーカイブ

2024

2023

2022

2021

2020

2019

2018

2017

2016

2015

2014

2013

2012

2011

2010

2009


Copyright © 2024 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.